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エビデンス重視から日常診療に即したガイドラインに
膵癌ガイドライン改訂経過、GEM+S-1の位置づけは合意に至らず
局所進行切除不能膵癌の推奨レジメンにFOLFIRINOXとGEM+nab-パクリタキセルが追加

2016/05/12
杏林大学腫瘍内科教授 古瀬純司氏

 膵癌診療ガイドライン2016年版が今年秋に発刊される予定です。ガイドライン改訂委員会によるガイドライン案をもとに、4月22日、第2回公聴会が開催されました。この後、日本膵臓学会のホームページに最終版を掲載して、パブリックコメントを募集していきます。

 今回の改訂の最も大きなポイントは、エビデンスに基づくガイドラインから、より日常診療に即したガイドラインに移行したということです。全体的な構成に大きな変化はありませんが、新たに緩和療法の部門を設けています。化学療法の部門では、局所進行切除不能膵癌の推奨レジメンにFOLFIRINOXとゲムシタビン(GEM)+nab-パクリタキセルが追加されます。

 このガイドライン改訂作業の中で議論が多かったのは、局所進行切除不能膵癌および遠隔転移を有する膵癌におけるGEM+S-1の位置づけです。記載する必要はないという意見と、日常診療で少なからず使われているので言及すべきだという意見がありました。

エビデンスがないとガイドラインに記載できないというジレンマ

 2013年版は「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン」でしたが、今回の2016年版は「科学的根拠に基づく」がなくなり、単に「膵癌診療ガイドライン」となります。

 「科学的根拠に基づく」があるために、エビデンスがないと推奨できず、ガイドラインにも載せられないというジレンマがありました。例えば、局所進行切除不能膵癌の1次化学療法として、現在はゲムシタビン(GEM)とS-1しかステートメント(推奨文)に記載されていません(2013年版改訂、2015年5月7日)。しかし「明日への提言」にも記されているように、FOLFIRINOXとGEM+nab-パクリタキセルは局所進行切除不能膵癌に対するエビデンスはありませんが、患者さんの状態によっては使わないわけにはいかないレジメンですし、保険収載され、日常診療ではすでに使われています。 
 
 そこで2016年版は「Minds診療ガイドライン作成の手引き2014」に則って、科学的根拠だけでなく、日常診療においてコンセンサスが得られていれば、推奨レベルを少し上げてもいいだろうというスタンスで作られています。

 具体的には、GRADE法を用いて、推奨の強さ(1:推奨する、2:提案する)、エビデンス総体(A、B、C、D)を決め、ガイドライン改訂委員による合意率、合意投票での議論も記載されます。

 全体の構成は2013年版と同じですが、診断、外科療法、補助療法、放射線療法、化学療法、ステント療法に、今回は緩和療法が加わり、計7部門となっています。

局所進行切除不能膵癌の1次化学療法にFOLFIRINOXとGEM+nab-パクリタキセル

 局所進行切除不能膵癌の1次化学療法としては、GEM単剤とS-1単剤、FOLFIRINOX、GEM+nab-パクリタキセル、さらにGEM+S-1についても記載が加わります。これにより日常診療にかなり近い感じになってくると考えています。

 最初、「GEM単剤、S-1単剤、FOLFIRINOX、またはGEM+nab-パクリタキセルを行うことを提案する」というステートメントが作成されたのですが、GEM+S-1も日常診療で使われており、記載をしなくていいのかという意見が出ました。一方で、GEST試験でGEMを有意に上回る延命効果は示されなかったわけですから、エビデンスがない以上は書く必要はないという意見もありました。

 そこで以下、3つの案が提案されました。案(1)は、GEM単剤、S-1単剤、FOLFIRINOX、またはGEM+nab-パクリタキセルを行うことを提案する。案(2)が、GEM単剤、S-1単剤、FOLFIRINOX、またはGEM+nab-パクリタキセル、GEM+S-1を行うことを提案する。案(3)は、GEM単剤、S-1単剤、FOLFIRINOX、またはGEM+nab-パクリタキセルを行うことを提案する。なおGEM+S-1を行うことを考慮してもよい。

 投票の結果、多数決で案(3)が選ばれました。案(3)は2つのステートメントに分けられ、前半のGEM単剤、S-1単剤、FOLFIRINOX、GEM+nab-パクリタキセルに関する推奨の強さは「2」です。エビデンスレベルはGEM単剤とS-1単剤は「B」ですが、FOLFIRINOXとGEM+nab-パクリタキセルは局所進行切除不能膵癌に対する前向きの大規模な試験がないため、エビデンスレベルは「C」です。

 そこで合意投票を行ったところ、合意率は94.1%でした。投票をして合意率が75%以上で合意あり、と定義されていますので、これはガイドライン改訂委員の合意に至ったステートメントであるといえます。ところが、後半のGEM+S-1に関する合意率は74.4%であり、合意に至りませんでした。

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