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Ann Intern Med誌から
9月上旬までのSARS-CoV-2感染論文のレビュー
ウイルスRNA検出期間と感染力の持続期間は異なる

 米国Montefiore Medical CenterのEric A. Meyerowitz氏らは、これまでに報告されたSARS-CoV-2感染に関する論文のレビューを行い、ウイルス側、宿主側、環境要因と感染の成立に関する状況を取りまとめ、Ann Intern Med誌2020年9月17日号に概説を報告した。

 著者らは、LitCovidとmedRxivという2つのデータベースを用いて、2020年1月1日から9月7日までに登録されていた英語の論文の中から、SARS-CoV-2の感染に関する報告を検索し、関連する論文の引用文献や、政府の報告などからも、条件を満たす研究を抽出した。SARS-CoV-2の感染動態に関する情報を提供している論文、具体的には、実験室でウイルスを用いて行った研究、示唆に富む症例またはクラスターに関する報告、その他の観察研究またはモデル化研究などの報告を分析対象にした。

環境中でのSARS-CoV-2の生存に関するエビデンス

 ウイルスをエアロゾル化したのちに、または環境の表面に植え付けたのちに、一定時間を経てから回収したところ、感染力を有するウイルスの存在が確認できたという実験結果の報告は複数ある。実験環境においてSARS-CoV-2は、低温では安定だが、高温になると感染力の低下が早まり、70度では5分で感染性を失うこと、また、様々な消毒が有効であることは示されている。

 しかし、現実的には、病室のような、感染者が生活していた場所の汚染された表面や、患者が使用した食器などからSARS-CoV-2のRNAを検出し分析しても、本人の鼻咽頭に存在するウイルス量と比べると、回収されるウイルスRNAの量は非常に少ない。特に、病室から採取したエアロゾルや粒子中に複製可能なウイルスが存在することを示した研究は、わずかしかない。

感染経路

 症例報告とクラスター報告に由来する強力なエビデンスは、主要な感染経路は経気道感染(飛沫感染またはエアロゾル感染)であり、距離と換気が感染リスクを作用する重要な要因であることを示している。このところ、直径が5μm未満のエアロゾルの中に感染性を有するSARS-CoV-2が存在していたという報告が増えている。エアロゾルを生じさせる医療処置以外にも、歌唱中や、換気の悪い室内などでは、エアロゾルが離れた場所にいる人にも感染させる可能性が示されている。

 距離が感染リスクの重要な決定因子であることを示した情報は数多く存在する。電車の車内での感染の事例は、感染者の座席からの距離、および、同じ車両に滞在した時間が感染リスクと密接に関係していた。フィットネス教室での感染は、狭い空間で多くの人が高強度の運動をしていた状態で発生した。これらの事例は、感染者からより短い距離にいた人のリスクが高いことを示し、エアロゾル感染より飛沫感染に注意する必要があることを示唆している。

 換気については、中国で家庭内感染のリスクについて調べた研究者たちが、窓を開けていた家庭では家族への感染が少なかったと報告している。換気不良は、バーや教会などにおける多くのクラスターの発生と関連づけられている。

 医療従事者と一般の人々の両方で、マスクがSARS-CoV-2の感染を抑制することが示されている。中国で行われた1件の研究は、発症前のマスクの使用が家庭内感染を顕著に抑制したと報告している。こうしたエビデンスもこのウイルスが主に経気道感染することを示している。

 直接または媒介物を通じた接触感染が起こることを明瞭に示したエビデンスはない。アカゲザルの結膜にウイルスを植えた実験では、感染は成立したが、経鼻感染させた個体に比べ、肺の症状は軽症だった。接触感染が強く疑われた症例もあるが、そうした患者においても、経気道感染の可能性は完全に否定できていない。

 医療従事者において手の衛生がずさんであることは、感染リスクの上昇と関係しており、塩素またはエタノールを含む消毒洗浄液の日常的な使用は、感染リスクの低下と関係していたが、解釈は難しい。人々の手の衛生が良好な環境では、他の感染予防策も十分に行われていることが多いからだ。著者らは、現在利用可能なデータをもとに考慮すると、環境に存在するウイルスによる接触感染が発生する可能性は低い、との考えを示している

 いくつかの研究が、SARS-CoV-2が、イヌ、ネコ、フェレットといったペットに感染することを示している。ネコではウイルスは効率良く増殖し、猫とフェレットの間では感染が起こることが示されている。一方で、イヌの体内ではウイルスの増殖は活発には起こらない。なお、ペットからヒトへの感染が生じたことを示した確かなエビデンスはない。一方で、飼育されているミンクからヒトへの感染を疑わせる症例は報告されている。

 垂直感染の可能性について検討した研究は数多く行われているが、こうした感染が成立することはほとんどないと考えられる。また、母乳にもSARS-CoV-2が見つかっているが、母乳を介した乳児の感染は報告されていない。

 糞口感染または糞便エアロゾル感染については、ヒトにおいて糞口感染が生じることを支持したエビデンスはない。また、アカゲザルの胃にSARS-CoV-2を植え付けた実験では、感染は起こらなかった。便中からウイルスRNAが検出されたとする報告は多いが、感染性を有するウイルスはごくまれにしか検出されない。複製可能なウイルスが存在すれば、トイレで水を流すことによってウイルスがエアロゾル化し、感染を引き起こすことはありそうだ。しかし、そうした危険性を示唆した研究も、それ以外の経路で感染が生じた可能性を否定できておらず、著者らは、糞便エアロゾル感染は、通常は起こらないのではないかと考えている。

 性行為感染を示すエビデンスは、これまでのところない。精液からはウイルスRNAが検出されているが、感染性のあるウイルスは見つかっていない。腟分泌液については、これまでに調べられた中で1例のみ、ウイルスRNA陽性だったと報告されているが、検出されたウイルス量は少なかった。今後、性行為による感染の可能性が示されたとしても、そうした症例において経気道感染を否定することは困難だ。

 血液感染はこれまで報告されていない。血液中にウイルスRNAが検出された患者の割合に関する最新の報告は、307人の感染者の血液を調べたところ陽性は3人だけだったとしている。それ以外の研究では、症候性患者85人の32.9%、入院患者では27%、外来を受診したCOVID-19患者では13%の血液中にウイルスが検出されている。しかし、血液中から複製可能なウイルスが見つかったという報告はない。

連載の紹介

シリーズ◎新興感染症
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する話題を中心にお届けしています。

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