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学会トピック◎日本病院学会2018
聖路加病院長・福井氏「『医療の質』の議論が二の次で危惧」

聖路加国際病院院長の福井次矢氏は、「『労働』と『自己研鑽』の線引きを行うのであれば国が責任を持ってやってほしい」と要望した。

 6月28日から石川県金沢市で開催された第68回日本病院学会では「医師の『働き方改革』はどうあるべきか」をテーマにしたシンポジウムが開催された。最初に登壇した聖路加国際病院院長の福井次矢氏は、米国では睡眠不足のレジデントが起こした医療事故を契機に「医師の労働時間規制」が議論されたのに対し、日本では医師の自殺を契機に議論が進められているという特徴があることを指摘。「患者さんに提供する『医療の質』の議論が二の次にされている印象があり、労働時間の議論が先行してしまっている。時間の論議だけが進むと、目の前の患者が苦しんでいるにもかかわらず、現場を立ち去る医師が出てくるのではないかと危惧している」と話した。福井氏のほか、厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏、日本医師会勤務医委員会委員長の泉良平氏、東京大学大学院国際保健政策学教室教授の渋谷健司氏、岡山大学医療人キャリアセンターMUSCATセンター長の片岡仁美氏が登壇し、意見を交換した。

 聖路加国際病院の医師は、本院の医師361人のうち、48%は卒後7~8年目の若い医師で、3年で40%の医師が入れ替わるのが特徴だ。同病院は2016年6月に労働基準監督署の立ち入り調査が行われ、その後、働き方改革を行った(関連記事はこちら)。

 労基署からの是正勧告を受けた後、10カ月をかけて、(1)全医師への説明会の開催、(2)労使協定の再締結、(3)休日・夜間の救急外来・病棟の診療体制の変更、(4)勤怠管理表の改定と1週間毎の提出を徹底、(5)1カ月単位の変形労働時間制の導入、(6)土曜診療の縮小、(7)診療時間内での患者さんへの説明の実施――などの対応を行ったと福井氏は紹介した。

 全医師への説明会では、一晩、宿日直すると10万円ほど掛かることなどを説明し、「少なくとも自分のための勉強は病院ではしないよう協力を求めた」(福井氏)。労使協定の再締結では実態を考慮し、それまで月間80時間、年間750時間に設定していた労働時間の特別条項を月間180時間、年間1470時間に変更した。

 夜間・休日の救急外来・病棟の診療体制を変更し、年齢の上限を引き上げて、ベテラン医師を活用することで若手医師への負担を減らした。例えば、救急外来はそれまで救急医師2人と5年目までの医師2人で17時から翌日8時まで当直していたが、これを17時から翌日8時までを救急医師2人で見るほか、準夜帯として17時~23時までを「救急科以外の10年目の医師2人」がシフトに入るようになった。外科病棟の当直は、それまで35歳程度までの医師2人で診てきたが、年齢を引き上げ、「50歳までの医師」が1人で診る体制に変えた。

 時間外業務の定義は、「労働基準監督署と厚生労働省まで訪問したが、明確な回答が得られなかったため、国の方針が示されるまでを期限に、私の判断で決めた。患者さんのケアに関わること以外は時間外業務と認められないことを全医師に納得してもらった上で開始した」(福井氏)。時間外業務に該当するものは、(1)病棟回診、予定手術の延長や緊急手術、サマリー作成、オーダーチェック、診療上必要不可欠な情報収集など診療に関するもの、(2)会議・打ち合わせ、(3)上長の命令に基づく研究・講演など。時間外業務に該当しないものとしては、(1)食事、睡眠、外出、インターネットの閲覧など休憩・休息、(2)自己学習、症例見学、参加任意の勉強会やカンファレンスなどの自己研鑽、(3)上長の命令に基づかない研修や講演など――。

 福井氏は、医師の勤務状況のモニタリングが重要だと強調。一人ひとりの時間外勤務の実態をモニタリングし、毎月、本人と診療科にフィードバックして時間外勤務を短縮できないかの検討を続けているほか、特に夜勤の多い医師がうつ状態になっていないか、精神状態にも配慮するようにしているという。

 これらの取組みから、1カ月当たりの平均時間外労働時間は徐々に減少し、2016年6月は94.1時間だったのに対し、2018年3月には36.2時間となった。ただし、「救急科、産婦人科、小児科、集中治療科の4診療科は、シフト制にしたくても医師が少なく難しい。雇用したくても医師がいない」と福井氏は話した。

 労基署とのやり取りを振り返り福井氏は、「医療現場の環境が整っていないにも関わらず、突然に(時間外労働を減らすように)改善を求めるのはおかしい。行政に携わるものとしてセンスがないのではないか」と指摘。さらに福井氏は、「労働」と「自己研鑽」を線引きすることは困難であるほか、「患者を診ること」イコール「勉強」と思っていると話した上で、「『労働』と『自己研鑽』『研究』の線引きを行うのであれば国が責任を持ってやってほしい」と要望した。

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