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特集◎院内感染対策の常識を疑え《9》
実効性ある院内「抗菌薬マニュアル」の整備を

「抗菌薬適正化には、コントロールではなく、stewardshipの考え方が求められる」と話す順天堂大の堀賢氏。

 抗MRSA薬や広域抗菌薬の適正使用を促すために、「届け出制」の導入や起炎菌確定後のデエスカレーションに関するマニュアルなどをどんなに作成しても、「そもそもカルバぺネム系抗菌薬を初期治療(エンピリックセラピー)で使用するという医師の処方行動自体が変わらなければ、意味がない」と順天堂大学大学院感染制御学教授の堀賢氏は指摘する。

 改善の鍵を握るのが、それら広域抗菌薬を処方せずとも治療が組み立てられる、院内の「抗菌薬マニュアル」の整備だ。このとき、「各診療科の臨床医が、抗菌薬を選ぶ際に意見を求めるような、各領域のオピニオンリーダー的な医師をメンバーとして巻き込み、同意を得ながら作ることが、マニュアルの遵守率を高めるポイントだ」と堀氏は続ける。

 感染制御医(ICD)が一方的に抗菌薬選択の是正を求めても、現場にはなかなか浸透しない。こうした「上から目線」の従来型指導が奏功しないことを教訓に、近年、「抗菌薬適正使用のマネジメントには、『コントロール』ではなく『antimicrobial stewardship』、つまり限りある抗菌薬を皆で有効活用しようという視点での関わりが求められるようになった」(堀氏)。

 実際に堀氏は、2008年に順天堂大附属順天堂医院で抗菌薬マニュアルを作成する際、各診療科の管理職クラスの医師を招聘して抗菌薬委員会を組織した。各科で初期治療に用いられている抗菌薬の多くがカルバぺネム系抗菌薬である実情を共有した上で、堀氏は、感受性に合わせて抗菌薬を使えば同薬剤を使わなくてもいい菌があることを自施設の抗菌薬感受性率を基に客観的に説明した。実は当時、同病院の緑膿菌のイミぺネムの感受性はわずか69%。31%が耐性菌である事実に委員の医師はショックを受け、納得・合意の上で、カルバペネム系抗菌薬をなるべく使わないという方針でマニュアルを作成したという。

 「当時は、ピペラシリンの感受性の方が92.5%と抜群に良かった。これまで当然のように使っていたカルバペネム系抗菌薬をわざわざ使う必要がないという事実は、強烈な印象を持って現場の医師に受け入れられた」と堀氏は振り返る。それが転機となり、カルバペネム系抗菌薬の処方件数は順調に減ってきている(図9)。

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