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特集◎認知症は病気じゃない 《Vol.3》先達に学ぶ(2)
悩む家族を救う“法則”を編み出す
川崎幸クリニック院長 杉山孝博氏

すぎやま たかひろ氏●1947年生まれ。東大卒。内科研修後、川崎幸病院に勤務。内科の診療や在宅医療に取り組む。87年から同院副院長、98年から現職。認知症の人と家族の会副代表理事兼神奈川県支部代表。

 時々しか会わない親戚にはしっかりした態度で話すのに、身近で世話する家族には非難の言葉ばかり浴びせるという認知症患者は少なくない。こうしたケースでは家族が辛い思いをし、介護を続けるのも苦しくなる。家族のそうした戸惑いは、患者を不安にさせ、BPSDは一層激しさを増すという悪循環に陥る。

 川崎幸クリニック院長の杉山は、戸惑う家族に対し、認知症の患者のこうした行動は、乳幼児と同様だと、次のように家族に説明する。「小さい子は母親には甘えても、父親や他人にはそうした態度を取らないもの。それは、母親を絶対的に信頼しているから。認知症患者も同じで、嫁でもヘルパーでも、最も身近な介護者に強い症状を出すのではないだろうか。実際私たちだって、他人にはよそ行きの振る舞いをするのに、家族にはぞんざいな態度をとりがちだ。だから、たまに会う親戚にしっかりした態度を見せるのは、当たり前のことなのではないかと思う」─。

自分を責め患者を隠す家族たち

 これは、杉山が独自に作った“法則”の1つ。認知症の症状は、身近な人に対してより強く出るという「症状の出現強度に関する法則」だ。この法則を説明すると、家族は「今後も介護を続けよう」という気になる。「薬や検査は認知症の医療のごく一部。そもそも画像検査の結果をいくら説明されても家族の悩みが消えるわけではない。重要なのは、患者の生活について聞きながら、合点のいく説明をして、家族にどうすればいいか分かってもらうことだ」と杉山は話す。

 1981年、知り合いの医師から請われ、発足したばかりの「呆け老人をかかえる家族の会」(現在は「認知症の人と家族の会」)の神奈川県支部を立ち上げる手伝いをすることになった。杉山は当時、認知症の患者をそう多く診ているわけではなかったが、「医学的なアドバイスをすればいいのかな」ぐらいの気持ちで家族の会の集いに出向いたという。しかし杉山が目にしたのは、認知症患者の振る舞いを理解できず、ただ悩み、苦しんでいる家族の現実だった。

 「痴呆」や「ボケ」と呼ばれていた当時、認知症は疾患として認識されていなかった。BPSDも、夜中に騒いだり失禁したり、徘徊したりするボケ老人の異常な行動として理解されていた。原因も分からず、「じいさんがボケたのは嫁のせいだ」というような言われよう。自分を責め、世間の目が向かないように患者を隠す家族が多くいた。

 患者の言動が理解できないために家族は混乱し、介護の仕方も分からなくなる。もしその言動に納得できれば、家族はもっと楽に介護できるのではないか─。そう感じた杉山は、多くの家族の声を聞くうちに、患者の言動に共通の特徴があることに気づく。

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