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特集●PK-PD理論に基づく抗菌薬使用
薬剤ごとに異なる「重要なPK-PDパラメータ」を知る
愛知医科大学大学院医学研究科感染制御学 教授 三鴨廣繁/助教 山岸由佳

2010/05/17

 多くの優れた抗菌薬が開発され、細菌感染症の治療は急速な進歩を遂げた。その一方で、薬剤耐性菌が増加し市中病院に蔓延し、医療技術の進歩に伴う易感染性宿主が増えて、これらが原因となったいわゆる難治性感染症の増加が臨床現場で問題になっている。薬剤耐性菌による感染症は、患者の予後を不良とし、入院期間の延長、コスト増大の大きな要因の一つになる。新規抗菌薬の開発(創薬)が停滞している現在、既存の抗菌薬の上手な使い方を考える「操薬」が重要となっている。

抗菌薬投与量設定の現状
 日本では外来治療で使用されることが多いβ-ラクタム系の経口抗菌薬や、薬剤低感受性菌や薬剤耐性菌の多い院内感染症に対する抗菌薬の投与量が、欧米の2分の1から5分の1程度と低くなっている薬剤が多いことが従来から指摘されてきた。この問題を本質的に解決するためには、臨床比較試験が必要であるが、日本では比較試験のデータは極めて少ない。

 このように日本では適正な抗菌薬の投与量について判断することが困難であるため、抗菌薬の臨床効果をPK(pharmacokinetics)とPD(pharmacodynamics)で評価する手法、いわゆる「PK-PD理論」が確立されるようになってきた1), 2)。PKとは薬物動態すなわち生体内における抗菌薬濃度の時間的推移であり、PDとは薬力学すなわち生体内における抗菌薬濃度と抗菌薬の効果・作用との関係のことである。PK-PDとは、薬物動態と薬力学を組み合わせて、抗菌薬の有効性や安全性を評価する考え方である。

 PK-PDを用いると、薬剤低感受性菌や薬剤耐性菌の多い院内感染症では、日本の抗菌薬の投与量が欧米に比して少ない傾向にあることがさらに明白になってきた。逆にいえば、PK-PD理論を活用することで、抗菌薬の効果を最大限に発現させることができる。また、副作用および耐性菌の出現を抑制するための適切な用法・用量の設定や医療経済性を考慮することも可能となる。ただし現時点では、抗菌薬のPK-PD理論の基礎的研究は進展しているが、臨床研究に関しては報告が少ないため、今後、臨床研究を進展させていく必要がある。

抗菌薬の抗菌効果と関連するPK-PDパラメータ
 抗菌薬の抗菌効果と関連する主要なパラメータとしては、(1)薬物投与後の最高血中濃度であるCmax値、(2)薬物血中濃度の時間に対する推移をプロットした薬物血中濃度―時間曲線と時間軸に囲まれる部分の面積で、血液中に吸収された総薬物量の代替として用いられるAUC(area under the curve:血中濃度曲線下面積)値、(3)一定量の細菌に対して種々の抗菌薬を作用させて18時間以上培養した後、目視により混濁が認められない抗菌薬の最低濃度としてのMIC(minimal inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)値などがある。

 上記のパラメータに加え、動物モデルを使用して検討されたPK-PDパラメータとして、Time above MIC(MICを超える濃度が維持される時間)、Cmax/MIC、AUC/MICが重要であることが明らかになった。Time above MICは、% Time above MIC(%TAM)として、点滴時間に占めるTime above MICのパーセンテージで示されることも多い。

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