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特集●急性膵炎診療の新常識
重症急性膵炎には早期からの経腸栄養が有効

「重症膵炎の治療において、感染の制御が大きな課題」と語る大津市民病院の片岡慶正氏。

 「治療は中心静脈栄養を行った上での絶食が基本」といまだ一部の教科書に記載されている急性膵炎の治療。しかし、特に重症急性膵炎には早期からの経腸栄養が晩期合併症予防に有効であることが、専門家の間でコンセンサスになってきている。

 絶食が基本とされていたのは、経口摂取により、膵臓を刺激するホルモンの分泌が活性化され、膵炎の増悪につながると考えられていたためだ。しかし、長期間の絶食は、腸管粘膜の萎縮や、腸管内の細菌の増加につながり、腸内細菌が腸管から腹腔内に移行(bacterial translocation)しやすくなることが分かってきた。近年、重症膵炎の治療において、腸内細菌の感染を予防することが重要であることが明らかになり、絶食は有効ではなく、むしろ逆効果と考えられるようになったのだ。

 重症膵炎で死亡する症例は、発症早期に生じる多臓器不全によるものと、発症から3週以降に生じる感染性膵壊死や腹腔内膿瘍、敗血症などによるものの2つに分けられる。

 「発症早期に生じる死亡例は、様々な努力で克服できるようになってきた。しかし、3週以降に生じる感染を原因とした死亡は依然として全死亡の約65%を占めており、感染の制御が大きな課題だ」と大津市民病院副院長の片岡慶正氏は語る。

 感染を減らす方法として注目されているのが、経腸栄養療法を発症早期から導入する方法だ。経腸からの栄養剤投与は、透視下もしくは内視鏡誘導下に、経鼻から栄養チューブを、十二指腸もしくはTreitz靱帯を越えた空腸内に留置して行うのが基本だ。300kcal/日程度の少量から投与を開始し、腸管運動を観察しながら増量する。

 膵刺激の少ない空腸から栄養剤を導入することで、膵臓の刺激による膵炎の増悪を回避しつつ、腸を働かせることができる。腸が動けば、腸菅のバリア機能や免疫力が維持され、膵臓などの臓器への腸内細菌の感染予防につながる。

 実際、厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班が2008年にまとめた『急性膵炎における初期診療のコンセンサス[改訂第2版]』では、「重症例で明らかなイレウス徴候、消化管出血がなければ早期から経腸栄養の(静脈栄養との)併用を検討する」とされている。

 また、日本腹部救急医学会などがまとめた『急性膵炎診療ガイドライン2010[第3版]』(2009年)でも、「重症例において、早期からの経腸栄養は感染症合併症の発生率を低下させ、入院期間の短縮や医療費の軽減にも役立つ」(推奨:B)と位置付けられている。

空腸までチューブを挿入するのが難しい症例には
 このように、重症急性膵炎には早期からの経腸栄養療法が推奨されているにもかかわらず、実際にはなかなか普及が進まないのが現状だ。厚生労働省難病対策調査研究の一環として行われている、急性膵炎に対する経腸栄養療法の全国調査の結果によると、2006年の急性膵炎全症例に対する施行率は11.8%に留まっている。2003年の3.9%に比べれば増加しているものの、まだまだ十分に普及しているとはいえない。

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