日経メディカルのロゴ画像

日経メディカル2013年3月号「この人に聞く」(転載)
ピロリ胃炎の除菌が保険適用、本年を「胃癌撲滅元年」に
浅香正博氏(北大特任教授)

あさかまさひろ氏 1948年北海道生まれ。72年北大卒。78年北大病院第三内科助手、83年同科講師、93年北大教授(内科学第三講座)、2007~10年北大病院院長。現在、北大大学院医学研究科がん予防内科学講座特任教授。
photo:吉田サトル

 今年2月21日、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌の保険適用が認められました。世界に先駆けてわが国から胃癌撲滅の火の手が上がったことになります。

 ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎とはWHOの国際統計分類ICD-10にもある病名で、ピロリ感染後数週間から数カ月以内にほぼ100%の人に生じる、好中球やリンパ球の浸潤を伴った慢性活動性胃炎のことです。

 ピロリ感染に対する生体の防御反応として出現するのですが、その結果インターロイキン(IL)1、IL6、IL8などの炎症性サイトカインを呼び集め、胃粘膜の炎症がさらに波及していきます。この持続する炎症により胃粘膜は次第にもろくなり、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃ポリープ、萎縮性胃炎、そして胃癌といった様々な疾患を生じやすくなるのです。日本消化器病学会日本消化器内視鏡学会日本ヘリコバクター学会の3学会と関連9社は慢性胃炎への除菌適用の公知申請を認めるよう要望してきました。その中で私たちが最も強調した点が、ピロリ感染胃炎に対する除菌治療の効果なのです。

 胃癌のベースとなる萎縮性胃炎が除菌で改善することを証明するのは非常に難しかったのですが、大分大のグループが長期間観察の貴重な論文を出しました。彼らは除菌後の患者30例の胃粘膜を10年間1年置きに内視鏡5点生検による経過観察を続けた結果、胃炎活動スコアは除菌後半年でゼロとなり、胃粘膜萎縮スコアも徐々に低下し、10年後にほぼ80%改善すると報告したのです。

 胃癌対策として、わが国ではこれまでX線法による2次予防検診が行われてきました。しかし、40年にもわたって年間約5万人が胃癌で亡くなっており、その死亡者数は全癌中2位を占めています。全国で地域、職域を含めて約620万人が公的検診を受けていますが、胃癌の発見率は0.088%(5500人)です。胃癌の発生数は約11万人。公的な胃癌検診は発生する胃癌の5%程度しかカバーしていないわけです。

 最近の日本と韓国での疫学研究によれば、胃癌の95%以上がピロリ感染に起因すると報告されています。同じ感染症由来とされる肝癌の予防では、ウイルス肝炎対策の必要性が認識され、2002年から国の補助を得て全国的にウイルス検診が行われています。陽性者には精密検査がなされ、インターフェロン治療が積極的に導入されています。その結果、肝癌死亡者数の減少が見られています。片や、胃癌検診受診者は横ばいで胃癌死亡者はむしろ増加傾向にあります。これからは胃癌対策の基本も1次予防におき、ピロリ感染対策に重点を移すべきです。

 ここ10年がわが国の胃癌対策の最大の分岐点だと考えています。なぜかといえば、ピロリ感染率が7割を超える団塊の世代が胃癌の好発年齢に入ってきているからです。このまま放っておくと胃癌の数がどんどん増えていく可能性があります。

この記事を読んでいる人におすすめ