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京大・山中伸弥教授インタビュー
「iPS細胞の作製技術と同様に評価技術も重要」

2012/10/12
河野修己=日経バイオテク

京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥氏。

 ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏は2012年10月11日、日経バイオテクのインタビューに応じ、iPS細胞の臨床応用の計画などについて語った。

――11日、米Harvard大学の日本人研究者らが、iPS細胞から心筋細胞を作製し、それを心筋症患者に注入する治療を実施していたとの報道があった。この臨床試験をどう評価しているのか。
 
山中 インターネットのニュースで読んだ程度で論文を見ていないので、私も詳細を知りたいところ。判断はできない状況だ。安全性についても、確保するのにどのような手を打っているのかが分からないので、コメントのしようがない。この研究者の方とは、一度か二度あったことがあるかもしれないが、深く話をしたことはない。

 日本では薬害などの歴史があり、重篤な副作用が起こった場合、想定外だったという言い訳は許されない。しかも、iPS細胞由来の細胞が腫瘍化するのは想定内の事態だ。どれだけ念入りに安全性を確認してこれで大丈夫だと判断しても、細胞の移植から5年後に何か起こる可能性は十分にある。もし何か起こった時に十分対応できるならいいが、そうでないなら相当なリスクを伴う。

 我々の研究で臨床試験開始に最も近いのは、iPS細胞から網膜上皮細胞を作製し、網膜変性の治療に使用するというものだ。これなら細胞の腫瘍化が起こってもすぐに診断できるし、レーザーで細胞を殺せる。来年には臨床研究が始まるだろう。また、同時期に米国での治験計画届提出を目指して準備している。

 iPS細胞由来の血小板を使った臨床応用にも大きく期待している。血小板は腫瘍化のリスクが最も小さいと考えられている。臨床試験開始に向けた最大の課題は、治療効果が得られるくらいの量の細胞をどうやって作製するかだ。この点が最大のボトルネックとなっている。

――現時点で細胞を初期化する方法でベストなものは何か。

山中 我々は、プラスミドベクターで6因子(筆者注:Oct3/4、Sox2、L-Myc、Klf4、Lin28、p53のshRNA)を導入している。作製方法と同様に重要なのが、細胞の評価方法だ。工業製品と同じで、作り方はいろいろあってもいいが、できたものが基準を満たしているかどうかを確認できなければならない。

――これまでの研究成果について臨床医からはどのような反応があったのか。

山中 現在、臨床に携わっている方と直接話す機会はあまりないが、想像するに「ノーベル賞の受賞は思ったより早かった。臨床応用の実績が出てきてからだと思っていた」という感想を持っておられるのではないだろうか。ただし、生理学・医学賞という名前の通り、医学的な業績に贈られているのは約半分だ。今回の受賞はノーベル財団が説明しているように、細胞の初期化という生理学的な業績に対するものだ。

 「iPS細胞の作製から6年で受賞」と言われるが、「英Cambridge大学のJohn Gurdon教授が細胞の初期化を発見してから50年での受賞」というのが正確だろう。私は今回の受賞を、“便乗受賞”だと表現している。私の研究業績は、Gurdon教授の発見の先にあるものだ。彼がいなければiPS細胞は生まれていなかった。

 これから先の方が大変だと考えている。iPS細胞を医学的にも価値のあるものにすることが、以前は臨床医だった私の責任だ。iPS細胞研究所の教授陣の半分以上は臨床分野の人。今後も基礎と臨床がより一体感を持って研究を進めていかなければならない。

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