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三胚葉に分化したiPS細胞 2006年の取材で山中氏から提供を受けた画像。形態も増殖能もES細胞に似たiPS細胞を得た山中氏は、ヌードマウスに皮下注射。通常は内胚葉からできる消化管様構造、中胚葉からできる軟骨、外胚葉からできる神経などに分化することを確認した。

 2012年のノーベル生理学・医学賞を英ケンブリッジ大学教授のJohn B. Gurdon氏とともに、京都大学iPS研究所長の山中伸弥氏が受賞した。対象となった功績は、“for the discovery that mature cells can be reprogrammed to become pluripotent”(成熟した細胞が多能性を持つようにリプログラムでき得ることの発見)だ。

 受精卵はあらゆる細胞に成熟できる多能性を持つ。しかし、幾度も分裂を繰り返して皮膚や神経、筋肉、臓器に分化して成熟した細胞は多能性を失い、同じ種類の細胞として増えるか、類似の細胞に成熟するだけだと考えられていた。

 その常識をまず覆したのが、Gurdon氏の研究。1962年にアフリカツメガエルのオタマジャクシの小腸上皮細胞の核を徐核した未受精卵に移植する核移植法により、オタマジャクシまで発生させられることを示し、「細胞を未分化な状態にする因子(Pluripotency Inducing Factors;PIF)」が存在することをいち早く世に問うていた。

 それから44年を経た2006年、山中氏らは“山中4因子”を用いてマウスの体細胞をリプログラム(初期化)した人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cell:iPS細胞)を作製することに成功。07年にはヒトの体細胞(線維芽細胞)からもiPS細胞を作製できることを示した。

ES細胞の数々の壁を克服できる
 iPS細胞より以前から、受精卵の多能性に着目し、受精後の胚細胞から得られる胚性幹細胞(ES細胞)の研究が長らく進められてきた。1981年にマウスのES細胞が樹立され、その後、98年にはヒトES細胞が樹立。マウスではすべての臓器に分化できることが示されているものの、ES細胞が多能性を持つ理由は分かっていなかった。

 しかも、ヒトES細胞を治療に使おうとしたら、他人の受精卵から得たES細胞を成熟させて患者に移植する場合、拒絶反応が起きるリスクを克服する必要がある。未受精卵に患者の体細胞を移植してから作製するクローンES細胞は、その克服に有望な技術だった。しかし、韓国の黄禹錫教授が作製したヒトクローン胚が捏造であったことが2005年末に発覚したのは記憶に新しい。

 そもそも、ヒトの受精胚を利用するES細胞は、常に倫理的な批判にさらされる。日本においては研究段階から、利用には厳しい制限が課されている。

 患者自身の体細胞を初期化して目的の細胞や組織に分化させることができれば、これらの問題は解決できる。しかし、その実現にはかなりの時間を要するというのが、2006年当時、多くの再生医療研究者の見解だった。その意味で、細胞の時計を逆戻りさせたという山中氏らの成果は、再生医療研究の時計を一気に進めたものと言える。

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