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日経メディカル2012年5月号「この人に聞く」(転載)
オランダの医療は家庭医が主役、保険医療の95%をカバー
クリス・ヴァンビール(ラドバウド大 家庭医療学教授)

Chris van Weel氏
1947年オランダ・ハーグ市生まれ。73年ライデン大卒後、ロッテルダム市で家庭医として診療に従事。81年エラスムス大で医学博士を取得。85年から現職。2007~10年世界家庭医機構(WONCA)会長を務める。
写真:秋元 忍

 オランダの医療提供体制は、プライマリケア中心のシステムです。ほぼ全ての国民が、近所の家庭医に登録されています。家庭医のリストに載っている人たちは夜間であれ週末であれ祝日であれ24時間365日、家庭医を通して、病院の専門医をはじめ全ての医療にアクセスできます。また、地域の看護師(district nurse)や理学療法士、薬剤師、助産師、臨床心理士などとも連携して、家庭医は住民の健康管理に責任を持ちます。

 オランダで働く医師の約35%が家庭医、35~40%が病院専門医、残りが公衆衛生などに従事する医師です。専門医への受診は、必ず家庭医の紹介という形を取ります。最近の調査で、家庭医は保険医療の95%以上をカバーし、それにかかる費用はオランダ総医療費の7%にすぎないことが明らかになっています。

 家庭医が、なぜオランダ医療の中心を担うようになったか、歴史的経緯を簡単に話しましょう。

 今に至るまで4つの大きな出来事がありました。最初の出来事は第2次大戦中の1941年に社会保障制度に関する法律が成立し、プライマリケアを通して保険医療が受けられる制度ができたことです。

 その後50~60年代に医学・医療のテクノロジーが急速に進歩し、病院医療が発展。それはある意味でプライマリケアに脅威となり、世間ではその価値を疑問視する声も高まりました。多くの家庭医は自信を失いかけ、プライマリケアが一体何を提供できるのかを考えなければいけなくなりました。

 そんな中、家庭医療の専門性を追求することでプライマリケアの価値を上げていこうと家庭医療の学会が立ち上がりました。政府も73年、家庭医になるには専門研修を修了しなければならないと決め、全国の大学に専門研修を行う家庭医療学講座を設置しました。家庭医療学は卒前教育でも提供され、全ての医学生が家庭医療を理解した上で医師になっていく仕組みが出来上がりました。

 3つ目の出来事は、80年代にメディカル・リサーチ・カウンシルという医学研究機構が立ち上がり、プライマリケアおよび家庭医療が研究領域の1つとして位置付けられたことです。その結果、家庭医による住民を対象とした臨床研究が多数行われ、それらのエビデンスを基に家庭医療の学会による診療ガイドラインも作られ、各家庭医が質の高い診療を提供できるようになりました。

 4つ目は、2006年の医療保険改革です。公的保険と民間保険が統合され、保険給付される医療の多くがプライマリケアを介したものとなりました。急性疾患の対応のみならず、慢性疾患の管理、メンタルヘルスなど様々な場面で、家庭医が中心的な役割を果たす機会がより増えたわけです。

 日本では、「登録制はアクセス制限につながる」「病院の方が医療の質が高い」という見方が強いそうですね。全国民が家庭医に登録されているということは、実はアクセスに対する保証でもあります。家庭医制度がある国の中でも、オランダの診療待ち時間は最も短い。家庭医は大抵グループで対応するので、急患でもその日のうちに診療を受けられます。

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