
ひのはら しげあき氏
1911年山口市生まれ。37年京大卒。41年聖路加国際病院内科医。74~98年聖路加看護大学学長。92~96年聖路加国際病院院長。96年から聖路加国際病院理事長、聖路加国際病院名誉院長。
写真:秋元 忍
昨年10月に100歳になりました。長年、医療の最前線で働いてきて、「これだけは言っておきたい」ことをいくつかお話ししたいと思います。
1つは看護師の業務範囲拡大についてです。今、「特定看護師」の制度が検討中で、特定の医行為について、認証を受けた看護師が行えるようにする方向で制度の取りまとめが進んでいるようです。しかし、その内容はまだまだ甘い。
私は、米国のナースプラクティショナー(nurse practitioner:NP)のように、診断や治療もある程度こなせる看護師を作るべきだとかねてから提案してきました。麻生太郎政権時代の2009年、「経済危機克服のための『有識者会合』」では、「修士課程を修了した看護職が、医師の了解の下、疾病の診断とある程度の治療を実施できれば、医師不足を補うことも可能」と提案したりもしました。
例えば小児科。診断力を身に付けたNPが、ベッドサイドで患児を診て、医師の診察が必要かどうかを見極め「こういう症状ですから、救急部門で受け入れてください」という連絡をすればいい。医師が毎度、患者宅やベッドサイドに行く必要なんてない。その方が医師は幅広くかつ深く、本来の仕事に注力できる。
麻酔もそうです。米国には認定麻酔看護師という資格があり、医師の監督の下、堂々と麻酔をしています。
今、小児科医が少ないとか、麻酔科医が足りないといって医学部の定員を増やすやり方を取っているでしょう。でも、卒業して、2年間の前期研修後、つまり8年後に何科を選ぶかは研修医自身が決めている。不足している診療科の医師が増える保証は今のところない。だったら、少ない科の業務の一部は看護師に担わせればいいのではないでしょうか。それが僕の持論です。
看護師の業務範囲を拡大すれば、医師は過重労働から解放されるのに、医師会は自分たちの領分を守ろうとし、国も保健師助産師看護師法(保助看法)を理由に積極的に改革を行おうとしなかった。
アメリカやカナダは40年以上も前からNPを導入しているのに、なぜ日本ではできないのでしょう。もう、診断と治療を医師が独占している時代ではありません。法律を根本から組み立て直すべきです。
聖路加看護大では既に、大学院の2年の修士コースで麻酔や小児の専門看護師を養成しています。法律はもちろんできてませんよ。できてないけれど先を見越して養成する。法律は後から付いてくるものです。
本格的なプライマリケア医、家庭医が日本には少ないことも問題だと思っています。