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日経メディカル2011年11月号「この人に聞く」(転載)
コーチングを活用して医療界のマネジメントを変えたい
畑埜 義雄(和歌山県立医大名誉教授)

はたの よしお氏
1970年関西医大卒。天理よろづ相談所病院などを経て、87年に京大麻酔科助教授。91年から2011年まで和歌山県立医科大麻酔科教授。現在、日赤和歌山医療センター顧問などを務める。
写真:山本 尚侍

 『日経メディカル』の2011年9月号まで、「医師のための実践!マネジメント・コーチング」を連載しました。執筆当時は和歌山県立医大の教授でしたので、現場でよくある悩みを取り上げ、反響もいただきました。退官した現在は、医療界にコーチングを広げる活動をしています。

 そもそも私がコーチングと出合ったのは、1つのニュースがきっかけです。04年、ある国立大病院の麻酔科で医師たちが次々と医局を離れてフリーになったり民間病院へ移ったりする、いわゆる“医局崩壊”が起きました。医局が崩壊するなどということがあり得るのだろうか─。私はこのニュースに衝撃を受けました。

 組織への帰属意識の低下やライフスタイルを重視する傾向など、個々の医師が医局を去った理由は様々でしょう。ただ、彼らが肉体的にも精神的にも不条理な犠牲を強いられ、評価も十分になされていなかったのではないかと想像されました。

 そんな矢先、テレビのニュース番組で偶然、コーチングの特集を目にしました。もともと組織マネジメントに興味があったこともあり、翌日にはあるコーチングの講習プログラムに申し込みました。約1年半かけて週に1度、電話による講習を受け、06年に生涯学習開発財団が認定するコーチ資格を取得しました。

 コーチングとは、「人が必要とする答えは、その人の中に眠っている」という考えに基づき、人材を育成したり、組織をマネジメントする手法のことです。相手の話に耳を傾け(傾聴)、相手の考えを引き出すために質問し(質問)、相手の存在や働きを認めた上で言葉にして伝える(承認)というのが、コーチングの基本的な3つのテクニックです。

 これまで医師の育成や医局のマネジメントは、教授を頂点とする医局制度の中で上司が部下に「これをやれ」と一方的に命令する形で行われてきました。しかし、命令に基づく人材育成や組織マネジメントには限界があります。命令を好む人などいるはずもなく、命令以上の仕事をする意欲も起きず、生じた結果に対する責任を感じることもありません。

 コーチングを学んだことで私は、人間の持つ意欲の大切さや、考えや個性の多様性に改めて気づかされました。医局員の考えや個性を認めた上で、働く意欲を高めることが最も重要だと考えるようになったのです。そこで、コーチングを学んだことは医局員に隠したまま、医局のマネジメントに意識的にコーチングの考え方を応用するようになりました。

 まず、朝のカンファレンスで発言するのをやめました。私が発言すると、医局員の考えが引き出されないばかりか、教授の考えという“正解”を押し付ける結果になるからです。研究内容などについても口出しせずに医局員に考えさせ、准教授や講師の意見を尊重するように心掛けました。

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