日経メディカルのロゴ画像

日経メディカル2010年9月号「この人に聞く」(転載)
パフォーマンス学の必要性が医療界でやっと認められ始めた
佐藤 綾子(日大芸術学部教授)

さとう あやこ氏●1947年、長野県生まれ。米国ニューヨーク大学大学院でパフォーマンス学を学ぶ。現在、日大芸術学部教授。社団法人パフォーマンス教育協会理事長。「佐藤綾子のパフォーマンス学講座(R)」主宰。写真:秋元 忍

 パフォーマンス学の必要性は、医療分野に限らず、近年とみに高まっています。理由は大きく3つあると思います。1つ目は日本人が元来シャイだからです。感情を表に出し、顔の表情や体を大きく動かして、はっきりと言葉に出すようにしなくても、相手は理解してくれるだろうという思い込みがこれまで強かった。それが、グローバル化の時代になって、他国の人はそういう表現では全く理解してくれないことがわかってきました。ビジネスにしろ、政治にしろ、日本人同士が内輪だけでやっていればよかったのですが、このシャイネスを克服しないと、世界で通用しない時代になってしまった。

 2つ目は、インターネット社会になったことです。メール、「2ちゃんねる」、ブログ、ツイッターなどインターネットの世界では、顔の表情や声が乗ってこない伝達法が主流です。そのせいか、文字だけで表現すればいいという風潮が高まっているように感じます。でも、実社会ではそれでは生きていけませんよね。

 3つ目は少子化の影響です。子どもが、生まれて初めて親以外で他者や社会を認識するのが兄弟姉妹です。でも、大勢子どもがいた昔と違って、兄弟間で自己表現や自己主張、我慢や忍耐が鍛えられないから、輪をかけて自己表現が下手な若者が育っているように感じます。社会に出れば他者とのかかわりが学生時代よりも必要になります。でもうまくかかわれない、コミュニケーションも取れない若者が増えています。パフォーマンス学を学ぶべき理由はそんなところにあるのです。

 医師と患者の関係においても同じような状況にあります。お互いこっちの言いたいことはわかっているだろうと思っているけれど、何もわかりあえていない。だから「30分もかけて患者に説明したのに、後でナースに電話で聞いてきた」といったことになる。

 患者さんは心身が弱って医師のもとを訪れているわけだから、普通の人同士の場合よりもっと緊密かつ正確なコミュニケーションが必要なはずです。ゆえに、医師は診療を行うに当たって、表情や話し方、手ぶりといった自己表現力を鍛えて、こちらの考えや意思を的確に伝えるとともに、患者さんの本当の気持ちをくみ取る努力をしなければなりません。さらに、適切な治療のために患者さんを励ましたり、時には叱ったりする必要もあります。

 そうしたパフォーマンスは、医師や病医院の評判向上につながるし、診療そのものの効率化も実現します。連載コラム「医師のためのパフォーマンス学入門」で一番に伝えたかったのは、そのことです。

この記事を読んでいる人におすすめ