
なかい ひさお氏 1934年奈良県生まれ。京大医学部卒業。名古屋市大助教授、神戸大教授を歴任。阪神・淡路大震災後に設立された兵庫県こころのケアセンター初代所長も務めた。
精神科医療の現場から退いて15年ほどになります。これまで精神医学の教科書や、看護師向け書籍、ギリシャ語詩集の翻訳書、エッセイ集など、数多くの本を著してきました。そんな中で、みすず書房から出した『臨床瑣談』(2008年)と『臨床瑣談 続』(2009年)はちょっと異色といえるかもしれません。
この2冊は、月刊誌『みすず』に2007年から不定期連載してきたエッセイをまとめたものです。「SSM、通称丸山ワクチンについての私見」の回は、昔、丸山千里博士のところに直接ワクチンをもらいに行った話や、私自身の臨床での使用経験、入手方法、作用機序についての私見などを書いたのですが、それが『みすず』に掲載されると、全国紙の書評欄で取り上げられました。すると、出版社への問い合わせが殺到し、『臨床瑣談』の出版につながったのです。
臨床瑣談という言葉は、私の長い臨床経験の中で味わったちょっとした物語といった意味です。「院内感染に対する患者自衛策」「昏睡からのサルベージ作業」「軽症ウイルス脳炎」「血液型性格学」というように、主として精神科以外のことをテーマに選んできました。『みすず』は一般向け雑誌なので、内容は医師向けではありません。でも、臨床医としての経験や、自分や家族、身の回りの人々の病気の体験を基に、書き残しておかなければ、と思ったことを書きました。現役医師ではなかなか言えないことも率直に書いてあります。