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日経メディカル2009年6月号「この人に聞く」(転載)
「名医」ではなく「良医」を書きたかった
帚木 蓬生(作家、医師)

2009/06/23

ははきぎ ほうせい氏 
1947年福岡県生まれ。東大仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九大医学部に学ぶ。病院の精神科勤務を経て2005年開業。『閉鎖病棟』『臓器農場』など著書多数。
写真:飯山 翔三

 私のこれまでの作品は、医の倫理や、先端医療の問題点などをテーマとした長篇のサスペンス小説が中心でした。この春、新潮社から刊行した『風花病棟』は、短篇集であること、そして等身大の医師の姿や人生の有り様を描いた点で、異色と言えるかもしれません。

 この本には短篇が10篇入っています。最初の1本目を執筆したのが10年前の1999年の春です。『小説新潮』の編集者から「短篇小説を書きませんか」と依頼されたのがきっかけです。テーマについては、これまでの私の小説とは趣向を変え、なるべく日常のお医者さんの内面を書くことにしました。

 1本目は専門である精神科の医師を主人公に、若いころ離島に赴任し、そこでイソミタール・インタビューを行った精神科医と、被験者のその後の人生についての話を「メディシン・マン」という題名で書きました。

 その後、1年に1篇ずつというペースで書きためて行きました。主人公が精神科ばかりでは広がりが出ないので、乳癌を患い抗癌剤治療を受ける女医、田舎の父親の診療所を継がず都会で働く眼科医、治療費を払えない婦人科患者に遭遇する後期研修中の女医─など、様々な立場、診療科の医師を登場させました。医師の友人に取材もしましたし、小説の中で取り上げる症例については、長篇に取り組むときと同様、九大の医学図書館に出かけて調べたりもしました。

 最後に掲載した「終診」は昨年発表した作品です。クリニックで30年間診療を続けてきた開業医が古希を迎え閉院する話です。診療所を閉じる老医の姿を描いた小説は、今までなかったのではないでしょうか。

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