高齢化や前立腺特異抗原(PSA)検査の普及により、自覚症状のない早期(ステージT1~T2)の前立腺癌が急増している。
治療技術も格段に進歩した。ここ数年で大きく変わったのが放射線治療の分野だ。東京女子医大病院放射線科教授の三橋紀夫氏は、「前立腺癌の場合、外照射治療では70グレイ(Gy)以上の線量が必要だが、近傍に膀胱や直腸といった正常組織があるため線量を上げられなかった。最近、放射線を前立腺に集中させられる技術が次々と開発され、高い線量でも安全に照射できるようになってきた」と話す。
具体的には、多方向から放射線を照射することで標的に放射線を集中させる三次元照射や、コンピューター制御によって照射線量に強弱をつけ、場所によって当てる線量を変えられる強度変調放射線治療(IMRT)などといった技術だ。
一方、2003年の保険適用後、急速に広まっているのが密封小線源治療。経直腸的超音波画像を見ながら、会陰から針を刺して前立腺に小線源(ヨウ素125)を永久的に埋め込む。既に全国60施設以上で実施されており、合併症が比較的少なく3~4日の入院で済むことから、希望する患者が多い。
ただし、長期成績も少なく根治性という面では手術や外照射治療に劣るため、適応は低リスクの早期癌に限られる。
年齢や生命観も判断因子に
早期の前立腺癌の治療で考慮すべきなのが、“天寿癌”ともいわれるほどの進行の遅さだ。静岡県立静岡がんセンター院長で泌尿器科医の鳶巣賢一氏は、「手術と経過観察を比較した試験では、8年間でわずかながら死亡率の有意な差が出た程度。早期で見付かれば、治療選択を考えるにも十分時間の猶予がある」と話す。
前立腺全摘術の術式が安定したのも、実は90年代に入ってから。放射線治療との比較も10年予後がやっと出始めた段階で、それでは両者の治療成績にほとんど差がない。
だが、「手術より放射線治療を選択する例が増える中、治療後に10年も20年も長生きすると、その間に直腸出血や新たな癌発生など、二次的な影響が本当にないのかという懸念はある」と鳶巣氏。長期的な経過についてはまだ誰にも分からないため、50~60歳代ではまず手術を勧める医師が多いようだ。
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