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連載●患者の「語り」を医療に生かす ― Narrative-based Medicine ― 《1》
なぜ今、「ナラティブ」なのか

日経メディカル2002年4月号では、「患者さんの幸福を左右する近未来の医学・医療のキーワード」の一つとして、ナラティブ・ベイスト・メディシンを初めて取り上げた。こちらから当時の記事を見ることができます(PDFファイル)。

 日経メディカル誌が、「ナラティブ・ベイスト・メディシン」(Narrative-based Medicine:NBM)を初めて取り上げたのは、2002年4月のこと(右写真)。それから5年が経過したが、当時の予想通り、このところ医療の世界で「ナラティブ」や、その訳語としての「語り」という言葉を聞く機会が増えてきている。特に看護の世界では、学会などでもシンポジウムのテーマとして繰り返し取り上げられるなど、かなり浸透してきているようだ。

 患者のナラティブとは、ある人の心身に起こった病にまつわる一連の体験が、その人なりの考えの下で、ほかのさまざまな物事や出来事と関連付けられ、解釈された上で、ある意味を持つに至ったもの、ということになる。もっと具体的にいうと、例えば治療中の癌患者であれば、どのような経緯で発見に至ったか、告知されたときにどのように感じたか、罹患したことを自分なりにどのように解釈したか、治療法をどのようにして決定したか――といったストーリーを、患者自身の価値観や考え方と合わせて語ってもらう。

 そうした患者のナラティブにしっかりと医療従事者が耳を傾けることで、患者の性格、好み、価値観、こだわりなどを知ることができ、それを、その後の患者とのコミュニケーションや治療方針の決定などに、生かすことができると考えられている。

 ナラティブ・ベイスト・メディシンに詳しい、富山大学保健管理センター長の斎藤清二氏によると、医療従事者が患者のナラティブに注目するようになってきた背景には、大きく分けて2つの要因があるという。1つは、エビデンス・ベイスト・メディシン(Evidence-based Medicine:EBM)を推進してきた人たちが、エビデンスを補完するものとして、ナラティブに目を向けるようになってきたこと。もう1つは、患者のQOLや満足度を重視する流れの中で、医療従事者と患者の間のコミュニケーションをより豊かなものにする必要性が増してきたことだ。さらに昨今、入院医療から在宅医療にシフトし、患者個々の希望や価値観を重視した医療が広まっていることも背景にあるだろう。

 そうした動きに呼応するように、最近、患者自らがナラティブを発信する試みも活発になってきた。患者発のナラティブは、別の患者にとって参考になることが多いだけでなく、医学教育の教材としても有用らしい。本連載の次回と次々回は、患者発ナラティブの実例を紹介する。

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