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【日経ヘルスケア11月号●診療所経営相談室より】
診療所が手狭になった 移転先を選ぶ際のポイントは?

【質問】
 地方都市の駅前商店街で無床診療所を開業して6年になります。いわゆる“ビル診”なのですが、患者が増えて手狭になってきたので、そろそろ移転を考えたいと思っています。移転先を検討する上で、留意すべきポイントを教えてください。(52歳、内科)

【回答】
既存患者の利便性を優先
(回答者:(株)川原経営総合センター 医業経営コンサルティング部・シニアマネージャー 平井 謙二)

 一般の内科診療所のように診療圏が比較的狭いケースでは、現在の診療圏から離れた場所に移転してしまうと、これまで通っていた患者が来なくなる恐れがある。例えば、質問者のように診療所が駅前商店街に立地している場合、通勤・通学で駅を利用する途中に診療所に立ち寄るような患者が多ければ、移転先が駅から遠くなるほど患者が離れていく危険性が高い。駅の近くで移転先を探すことが大前提となる。

 なお、移転先がたとえすぐ近くであっても、大きな幹線道路や川、線路を越えて移ると、患者の大半が入れ替わってしまう可能性があることも肝に銘じた方がいい。一方、診療圏が比較的広い診療科であったり、郊外の診療所などで患者の多くが車で通院しているような場合には、現在の場所から多少離れてもそれほど問題はないだろう。駐車場を広く確保できる物件が見つかれば、患者の利便性は高まる上、さらに遠方の新規患者の獲得につながる場合もある。

患者の居住地分析が有効
 移転先を考える際には、自院の機能や診療スタイルが地域でどれほど支持されているのか、そしてその結果、どれほど“熱烈なファン”がいるのかを改めて考えることも重要である。

 大病院や、地域で唯一の透析治療施設が500m~1km離れた場所に移転しても、患者数にほとんど変化がなかったという話は珍しくない。不妊治療で全国的に有名な産婦人科医院が札幌から函館に移転した際、多くの患者が通院を続けたという事例もある。

 非常にユニークな商品を扱っている雑貨店や有名シェフのいるレストランなどが立地にそれほどこだわらないように、その医療機関が患者にとって「オンリー・ワン」であれば、既存患者の通院の利便性という条件をさほど重視しなくてよい場合もあるのだ。ただし、定期的に通院している患者が必ずしも熱烈なファンとは限らないという点に、注意する必要がある。

 診療所で患者向けに通院理由を尋ねるアンケートを行うと、多くの場合、「通院に便利だから」との回答が70~80%を占め、以下、「医師の説明がわかりやすいから」「職員の応対が良いから」が20~50%と続く(複数回答の場合)。「通勤や買い物の途中に通る道にたまたまあって、便利だったから」との理由で固定患者になっているケースも十分に考えられる。

 自院の集患力を過信しないためには、患者の居住地分析をすると参考になる。駅の反対側や隣の駅など、遠くからわざわざ来ている患者が多ければ、患者の心をとらえているという自信を持ってもよいだろう。

連休を使って効率よく移転
 移転先が決まったら、新しい施設について保健所の検査を受け、社会保険事務局など関係機関に所定の移転届を提出する。その手間は新規開業の時とほとんど変わらないので、あらかじめスケジュールを組んでおきたい。

 そして、遅くとも移転の1カ月前には移転先の地図を院内に掲示したり、案内パンフレットを作成し受付窓口で手渡すなど、通院患者への周知徹底を図ることが必要だ。過去1~2年に受診した患者にもダイレクトメールを送るなど、地域に対してPRすることも忘れてはならない。また、移転直後の混乱を避けるため、あらかじめスタッフとともに十分に下見しておく。

 移転は、連休などを利用して2~3日で行うのが一般的。診療所の引っ越しといっても、特別なことはほとんどない。X線装置やCTなどの放射線機器の据え付けには専門業者の手が必要だが、そのほかの機器や備品はスタッフや引っ越し業者でも扱える。

【まとめ】
・現在の診療圏から大きく離れた場所への移転は、既存患者を失う恐れがある。大きな幹線道路や川、線路を越えての移転も要注意。
・熱烈なファンが多ければ、多少遠方に移転しても問題ない場合がある。患者の居住地分析を行い、“熱烈度”を事前に確認しておくとよい。
・移転が決まったら、遅くとも1カ月前までには院内告知を。過去1~2年に通院したことのある患者にも、ダイレクトメールなどで周知を図る。

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