胃瘻は栄養管理のツールとして非常に有用だ。脳梗塞で寝たきりになってしまったような患者も、胃瘻を造れば家に帰ることができるし、栄養状態が改善して褥瘡の治癒も期待できる。介護も楽だ。だが、胃瘻から離脱できないまま何年も経てば、「栄養管理」から「延命治療」のツールという位置づけになってしまう。
QOLが低い状態のままで胃瘻で生き延びることが患者にとって本当に良いことか? 胃瘻のあり方を疑問視する医師が増えている。
「胃瘻の管理は長期戦で、マラソンのようなもの。これまでは、“川上”といえる造設直後の効果ばかりが注目されてきた。だが、在宅や施設で長期管理されている“川下”の患者はどんどん増えてきており、長期間見続けている介護者や医療従事者は心身ともに疲弊してしまうことも多い。こうした患者や家族への対応のあり方を真剣に考えるときがきている」。NPO法人「PEGドクターズネットワーク」の代表理事である鈴木裕氏(東京慈恵医大病院外科講師)は現状をこう説明する。
鈴木氏の推計では、胃瘻を造設している患者は少なく見積もっても現時点で40万~50万人。そして、毎年15万人ほどのペースで胃瘻が新規に造られているという。
本人の意思確認できたのは55人中1人
上牧温泉病院(群馬県みなかみ町)内科の丸山秀樹氏も、胃瘻を造るまでの意思決定プロセスや、いわゆる“つくりっぱなし”が多くなっている現状について問題視している一人だ。
同院は、98床中62床が療養型病床。他院で胃瘻を造設した患者を多く受け入れており、まさに“川下”に当たる。転院してくる主な理由は、「胃瘻を造設したが褥瘡や肺炎の問題がある」「介護施設に移すには不安」「在宅での介護は困難」といったものだ。
「胃瘻患者はうちでそのまま亡くなるケースがほとんど。『最終受け入れ施設』のような役割を担っている」と丸山氏。患者の多くは胃瘻を造る時点で意思疎通もできず、そうした場合には家族の面会もほとんどない。単に延命のために胃瘻で管理されているとしか思えない患者に接するたびに、「なぜこの人に胃瘻を造ったのかと疑問に感じることも多い」と丸山氏は語る。
丸山氏は、1998~2006年の間に他院でPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)を施行して同院に転院となった患者のうち3カ月以上の長期経過を観察できた55人(平均観察期間475日、最長8年)に対し、胃瘻造設時の状態やその後の経過について調べた。
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