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連載●薬の価値は「費用対効果」で測る~英国薬事情《3》
ボルテゾミブ「効かなかったら薬代を返します」

 およそ薬というものは、投与した全員に必ず効く(有効率100%)ということはなく、効かない人がいるものだ。だから、薬の価格を“成功報酬”にすることは、通常なら考えられない。

 その常識を打ち破る新提案をNICEが行った。NICEは2007年6月、多発性骨髄腫の治療薬ボルテゾミブ(日本での商品名ベルケイド)について、有効(完全寛解[CR]または部分寛解[PR])だった場合は、NHSが費用(3サイクルで患者1人当たり9000ポンド[1ポンド240円として216万円]、8サイクルで2万5000ポンド[600万円])1~2)をカバーし治療を続行するが、無効だった場合は治療を取りやめ、かかった費用は企業側(Janssen-Cilag)がNHSに払い戻すという診療指針(ガイダンス)案を発表した。名付けて“レスポンス・リベート・スキーム”という。このような提案は英国でも前代未聞だった。

 NICEは、「ベルケイドは高価な薬剤であるため、たとえ潜在的に有益な薬であっても費用対効果は乏しい。したがって、NHSでその価格のすべてをカバーするのは困難である」と考えており、一方のJanssen-Cilagは、英国以外の国における値崩れを防ぐために(本連載の第2回目で紹介したタルセバは、暫定的な措置とはいえ事実上の値下げを余儀なくされている)、払い戻しを受け入れることにしたものと推測される。このことをいち早く報じたBMJの記事2)には、「この方法は限られた財源の中で高価な薬剤を提供するという問題を解決する画期的な方法だ」という血液専門医のコメントが載った。

 New Engl J Med誌は、展望欄3)で、企業にとって一見、不利に思えるこのスキームがなぜ受け入れられたかについて考察している。それによると、医薬品は、開発には莫大な費用がかかるが、いったん市場に出たら、生産量を増やすのにはそれほど費用がかからないという特徴がある(経済学でいう固定費用は高いが、限界費用は相対的に安い)。したがって、たとえ一部の顧客(患者)に値引き(薬剤費の払い戻し)をしたとしても、より多くの患者に使ってもらった方が、トータルの利益は増えることになる。ほかに競合品がない独占状態では、企業は商品に価格差を付けて、異なるニーズを持つ様々な人に購入してもらうことにより利益を最大化できるというのは、経済学の教科書にも出てくる定説だ(いわゆるprice discrimination)。

 NICEは2007年10月24日にガイダンスを発表し、この“レスポンス・リベート・スキーム”が確定した。NICE側は高価な新薬をNHSで使えるようにするための“win-win”の解決策だと自画自賛している4)

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