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連載●薬の価値は「費用対効果」で測る~英国薬事情《2》
エルロチニブ「自主的に値下げ」の怪

 英国には薬の“1国2制度”が存在する。例えば、「スコットランドでは使えるのにイングランドとウェールズでは使えない」薬があり得るのだ。その一例が、エルロチニブ(日本での商品名タルセバ)。日本では、10月19日に承認されたばかりの非小細胞肺癌の治療薬だ。

 2007年3月、英国の国立研究機関であるNICEは「費用対効果に乏しい」として、タルセバを推奨しないという方針を発表した。NICEが「推奨しない」という方針を最終決定すれば、英国の国民医療保険制度を司るNHSの下でその薬剤が使用できなくなることを意味する。

 一方で、スコットランドでは、タルセバの使用が認められている。スコットランドには、医薬品の許認可権を持つ政府組織として、イングランドやウェールズを管轄するNHSとは別の組織(NHSスコットランド)を持っており、使用できる薬剤の決定を独自の判断で行っている。英国では、専門医にかかるには一般医(GP)からの紹介が必要なため、イングランドの住民は引っ越さない限りタルセバを処方してもらえないということになる。ちなみに英国では、NHSで認められない部分だけを患者が自費で払うという、いわゆる混合診療の制度はない。

 ところがその後、2007年10月になって、タルセバの製造販売元であるRocheが動いた。NICEの最終判断が出るまでの間に限り、英国におけるタルセバの価格を実質的に引き下げる措置に踏み切った2)。Rocheの説明によると、これはあくまで値下げではなく、「タルセバ・アクセス・プログラム」という別の資金を企業が提供して、タルセバの代替薬であるドセタキセル(日本での商品名タキソテール)と同等の価格で、NHSの病院がタルセバを購入できるようにするものだという。とはいえ、125日間の治療で平均6798ポンド(1ポンド240円として約163万円)の薬を27.5%も安く買えるというのだから、購入する側の感覚としてはまさに「値下げ」である。

 暫定的な措置とはいえ、企業側が自主的に薬の価格を下げるのは、さすがの英国でも異例のこと。費用対効果を考慮したNICEの評価、および国営医療であるNHSのバーゲニングパワーが、企業を動かしたといえるだろう。

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