日経メディカルのロゴ画像

人工呼吸器外しを断念したわけ
医師を法的に守る終末期医療の仕組みが必要

「善意でやっても医師らが法的に守られる基準がない中で、院長として時期尚早と判断した」と語る舟橋啓臣氏

 射水市民病院(富山県射水市)で呼吸器外しが発覚し、社会の注目を集めてから1年。各地の病院や学会では、延命措置の非開始・中止の基準についてのルール作りが始まっている。厚生労働省もこの4月に、踏むべき手順に焦点を絞った指針を正式にまとめる予定で、延命治療を巡る幅広い議論が喚起されている。医療従事者が患者の意思を尊重できる体制を作るには、何が必要なのか--。

多治見病院は倫理委決定でも実行に踏み切れず
 2006年10月、岐阜県立多治見病院の医師らは、脳死状態の80歳代の男性の人工呼吸器を取り外すことを決断した。心肺停止状態で運ばれたその患者は、人工呼吸器管理で一命は取り止めたものの、「回復の見込みがないときは延命治療をしないでほしい」とのリビングウィルを書面で残していた。家族もその意思に同意。複数の医師で脳死を確認し、院内の倫理委員会で検討した上での決定だった。

 だが、院長の舟橋啓臣氏は実行に踏み切れなかった。「完璧に近い形で、本人のリビングウィルを尊重できる条件が揃っていた。患者の意思を尊重したい気持ちは強かったが、善意でやっても医師らが法的に保護される基準がない中では難しい。院長として時期尚早と判断した」。
 
 この一連の出来事は、呼吸器外しを倫理委員会で容認したという事実と、その後の院長の判断に注目が集まり、新聞各紙や雑誌で報道が相次ぎ、議論を呼んだ。

 舟橋氏の判断に対し、病院には「なぜ希望通りに死なせてあげなかったのか」という内容の投書が多く寄せられた。その一方で、医療現場からは「今の状況ではやむを得ない」との声も多い。

 延命治療を中止するとなると、呼吸器外しや投薬の中止など医療内容の程度に差こそあるものの、刑事訴追のリスクが付きまとう。明確なルールのない中では、どうすれば刑事訴追を避けられるのか、答えはない。多治見病院と同様の苦悩に直面したことのある医師は少なくないだろう。

 実際、今年1月に公表された共同通信の調査では、回復の見込みがない医療について全国の救命救急センターすべてに聞いた結果、患者や家族から呼吸器を含む延命中止を求められたことのある医師は79%、そして実際に呼吸器を外した経験のある医師は、なんと14%にも上っていた。

この記事を読んでいる人におすすめ