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2005年度ノーベル医学生理学賞者インタビュー
ピロリ菌発見者マーシャル教授に聞く
ピロリ菌を飲んだ実験は研究キャリアの決定的な分岐点になった

「チャンスは準備ができた頭脳に訪れる」とバリー・マーシャル氏。

 ヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ)の発見で、西オーストラリア大名誉教授のロビン・ウォーレン氏とともに2005年度ノーベル医学生理学賞を受賞した同大学教授のバリー・マーシャル氏が今年3月に続いて7月に再来日し、日経BPとの単独記者会見に応じた。H.ピロリ発見に至るエピソードを中心に、日本の医学研究者と臨床医家へのメッセージを交えて語ってもらった


――培養皿を偶然放置したことがH.ピロリの発見につながったというエピソードは有名です。

マーシャル まず、ルイ・パスツールの言葉を引用したいと思います。「チャンスは準備ができた頭脳に訪れる」というものです。色々な人に幸運な機会は訪れているかもしれないが受け取る側に準備ができていなければ、チャンスをものにすることはできません。

 私の経験は、様々な分野の研究者、特に医学研究を志している方には参考になると思いますので、少し詳しく話しましょう。

 研究を始めた当初は(H.ピロリが)未知の細菌だったので、培養法はもちろん分かりませんでした。ただし、培養を担当する技術者は2日間だけ培養する慣習でした。研究を進めましたが培養には成功できないでいました。

 1982年の復活祭直前の木曜日、潰瘍患者の試料の培養を依頼しましたが、培養担当の技術者が大変忙しく、土曜日に培養皿を確認しませんでした。復活祭の休み(オーストラリアでは金曜日から月曜日まで)にかかっていたため、そのまま火曜日まで5日間培養し続けることになりました。

 今では、H.ピロリは4日培養すると視認でき、5日目にははっきり確認できることが分かっています。われわれは5日目の培養皿に菌を発見することができました。(編集部注:1982年の復活祭は4月11日の日曜日。したがって歴史的な培養は4月8~13日に行われたことになる)。培養期間が2日間だったことを除けば、他の条件についてはわれわれが正しい培養法を行っていたことも明らかになりました。

 論文化を目指して行う本実験では、非常に厳密な方法論を適用されます。前向き盲検で行われるため、患者から採取した検体を微生物研究者に渡すと、1年間は培養結果を知ることができません。予備実験の間に、偶然5日間培養するという幸運に恵まれなければ、1年間同じ手続きを踏まなければならなかったので、細菌培養はうまくいかず、研究全体が失敗に終わったはずです。

 このことから言えるのは、医学研究を行う際、研究者はまず、小規模な予備研究を何回か行って、手法が正確で効率的かどうかを確かめるべきだということです。それによって新しい方法論を確立でき、効率よく本研究を進めることができます。

 研究機関は、一般に予備研究には資金を出し渋る傾向がありますが、小さな成功を積み重ねてはじめて、大きな成功が得られます。このプロセスを正しく踏まないと間違いをおかすことになります。

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