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「新・医療法人」で問われる医療界の見識
消費税議論に飛び火する可能性も

 「非営利性を高めた医療法人制度に変わると、診療所の法人化に踏み切る医師が激減すると思う。医療界にとって、恥ずかしいことになるのではないか」――。医療法人に詳しいシンクタンクのある研究員はこう指摘する。

 6月14日に成立した医療制度改革法には、良質な医療を提供する体制の確立を図る目的で、医療法などの改正も盛り込まれている。主な改正内容は表1に掲げた通り。医療法人に関しては、公益性の高い「社会医療法人」を新たに創設したほか、一般の医療法人に関しても、持ち分の定めをなくした。これにより、社員(出資者)が出したお金を引き上げる場合や、医療法人を解散する場合は、実際に拠出したお金しか出した人に返還されないことになった。解散の場合、残った財産は、国や自治体、医療法人など医療提供者のものとなる(2007年4月1日前に設立済みの医療法人については当分の間、不適用)。

 現在でも、医療法人は、稼いだ利益を出資者に配当することは禁じられている。だが、出資の引き上げや解散の場合は、法人に蓄積された利益も含めた額が出資者の手に戻ることになっていた。法改正でこうした“抜け道”がふさがれ、「非営利性」が徹底したわけだ。現在、全国には約4万(歯科を含む)の医療法人が存在する。ひところに比べて設立ペースは鈍っているものの、病院、診療所(医科・歯科)の新規開設数から見て、年間1000法人前後が新しく設立されているようだ。「来年度に入るこのペースに大ブレーキがかかるのではないか」というのが、冒頭に掲げた研究員の懸念である。

 もしそうなると、単に体面が悪いだけではすまないかもしれない。医療機関の経営に、実害が生じる可能性も否定できないだろう。例えば今、自由民主党の税制調査会は、税制の抜本的見直しの議論を進めている。医療機関に関係する税金も例外ではない。税調幹部の一人は、「病院や診療所は『公益性』があるから、経費を収入から概算できる四段階税制や、診療報酬に対する事業税の非課税措置に手をつけるつもりはない。消費税に関しては、税率引き上げとともに食料品などはより低い税率とする仕組みが導入されるとなれば、医療も『公益性』を理由に低税率の対象になり得る」という見方を示す。

 診療報酬をはじめ、医療機関の収入の大半は、消費税が非課税とされている。非課税とされる収入には消費税分の5%が含まれていないが、多くの経費には消費税分が上乗せされている。企業なら収入に伴う消費税から支出した消費税を差し引いて差額を納税すればいいが、医療機関はそれが不可能なため、支出した消費税が自院の負担になってしまう。こうした「損税問題」の解決は、ここ10年ほど医療界の大きなテーマであり続けた。医療が非課税でなくなり、かつ軽減税率の対象になれば、患者にそれほど負担をかけず損税は解消される。長年の懸案の一つが片付くわけだ。

 新しい医療法人が備えているのは「非営利性」で、「公益性」と多少意味が違うことは言うまでもない。しかし、非営利を徹底したとたんに、医師が医療法人設立に及び腰になったというのであれば、消費税の議論に当たり、医療機関側に不利な材料となりかねない。ずばり「公益性」が求められる社会医療法人も、今後その数が増えてこなければ、やはり医療界の姿勢が問われることになるだろう。

 既に法人化している診療所、そして個人開業医や勤務医にとって、医療法人制度の見直しはあまり関心のないことだろう。しかしこの改正は、医療界に“踏み絵”を突きつけていると見ることもできる。今後の成り行き次第では、様々な場面でマイナスの作用を及ぼすかもしれない。 

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