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寄稿◎弁護士が考える「医師の働き方」(上)
医師は何時間働くべきか

2017/06/12
三谷 和歌子=弁護士、田辺総合法律事務所

 「働き方改革」で残業時間上限規制が導入されることになり、医師については5年の猶予の後に適用されることとなった(関連記事:医師では規制先送りも時間外労働削減が急務に)。これに対し、医療業界からさまざまな反応が挙がっているが、「働き方改革」適用前の現在においても、「医師の時間外労働時間には制限がある」という認識は薄いかもしれない。

 労働基準法では、労働時間は1日8時間・週40時間が原則とされるが、三六(サブロク)協定と呼ばれる労使協定を締結すれば、この時間を超える時間外労働・休日労働も許容されることになる。ただし、そこには上限がある。超過が認められる労働時間について、厚生労働省は平常時には月45時間・年360時間を上限と定めている。一方で、緊急時(一般企業の例では納期のひっ迫や機械のトラブルへの対応など)の対応として、1年の半分を下回る期間で、月45時間・年360時間を超過する労働時間を協定することができる。この超過する時間数については上限が定められていない

 こう聞くと、「使用者は臨時であれば何時間でも働かせられる」といった誤解が生じるかもしれないが、そうではない。あくまでも「上限が定められていない」のは協定で定める上限時間に決まりがないというだけで、協定を締結する際には労働時間の上限を定めて届け出る必要がある。

 おそらく多くの勤務医は、勤務先が労働基準監督署(労基署)に届け出ている三六協定の内容をはっきりと意識していないだろう。相当数の病院で、緊急時の時間外労働時間の上限は、1カ月80時間を超える内容となっていることが推定される。一部に100時間を超える場合もあると聞く。これは極端な例かもしれないが、関西電力病院(大阪市福島区)では、三六協定で定めた時間外労働の上限を超えた労働をさせたとして労基署から是正勧告と指導を受けたが、同病院の緊急時の時間外労働時間の上限は月200時間と定められていたという(2017.2.23 時事通信)。

 このように、現行制度上は、緊急時の時間外労働時間について締結する協定の内容に、何時間以内という制限はない。しかし、締結した協定の時間を超過すれば、違法な時間外労働になるのである。2016年6月に労基署から立ち入り調査を受け、医師の長時間労働について指摘を受けた聖路加国際病院の場合、三六協定の内容は公表されていないが、医師の労働時間の実態は協定に定められた時間を超過していた可能性がある。

 相当数の病院は、緊急時の時間外労働をかなりの長時間に設定して協定を締結することにより、法令遵守を維持しているのが現状であろう。こういった病院については、「働き方改革」がこのまま医師にも適用された場合、三六協定の内容自体を改めなければならない。例えば、上限を月200時間としていた病院は、単月100時間、連続するなら月80時間に変更することになろうが、それで従来の医療サービスの水準をそのまま維持することは、かなり困難だろう。

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