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群馬大病院腹腔鏡事故の事故調査手法は「べからず集」の大典である
中島恒夫氏(一般社団法人全国医師連盟理事)

2015/05/12

なかじまつねお氏○1992年に信州大学卒業。2012年から丸子中央病院にて消化器内科医として勤務。日本の医療を守るために2008年に設立された医師による団体「全国医師連盟」の代表理事を2011年から務める。会員数は800人ほど。

はじめに
 本文は、2015年3月6日に公表された「群馬大学医学部附属病院 腹腔鏡下肝切除術事故調査報告書」(以下、群大報告書)に関する論評であり、各症例に対する医学的な論評ではありません。群馬大学医学部附属病院(以下、群大病院)の腹腔鏡下肝切除術事故調査委員会(以下、群大事故調)と同様の事故調査手法、そして群大病院と同様の対応を行うことが、医療安全の最大の妨げとなり、医療安全に対する姿勢の欠如を公にするだけであることを、今後、医療安全を目的とする院内事故調査委員会を設置される医療機関に対して注意喚起することが、本文の目的です。
 また、本文は、群大病院の発表内容(※1)に基づく論評であることをあらかじめ申し上げます。


事故調査を始めるにあたって
 「医療事故調査」の目的は何か? それは、医療の安全性向上に資する情報を収集し、今後の医療に安全策を提言するという「フィードバック」にほかなりません。

 航空機事故や船舶事故などの事故調査機関として、運輸安全委員会が既に設置されています。また、消費者事故調も運用が始まって久しいです。これらの事故調査機関は、次なる事故や被害者を生まないための「再発防止」が目的です。誰かの「過失」を問うための調査ではなく、調査対象事故の被害者を救済するための調査でもありません。

 これまでの日本の事故調査は、さまざまな事故の「最終立会者」に「過失」という責任を押しつけるだけでした。これでは、事故が「なぜ」発生したのかという背景要因を浮かび上がらせることはできません。事故の最終立会者には、誰でもなり得ます。背景要因に潜む複数の問題点を全て改善させなければ、「いつか」「どこかで」「誰かが」同様の事故に見舞われます。これは不幸なことです。

 改正医療法に記された「医療安全を目的とした院内事故調査委員会」を設置する医療機関も、第三者機関も事故調査を始めるにあたって、調査の目的が「医療安全」であって「責任追及」ではない旨を調査対象者に明示すべきです。また、責任追及に使用する可能性がある場合は、調査対象者には「黙秘権」があることも示すべきです。そして、報告書を作成する際にも、文頭に同様に記すべきでしょう。

 「責任追及型」院内事故調査委員会を設置される医療機関が、群大事故調の調査手法や公表方法を踏襲されることを否定はしません。もっとも、群大報告書には、「事故調査の目的」「報告書の目的」がそもそも記載されていません。これは、群大病院および群大事故調が、「責任追及」を目的とした事故調査を行ったことを暗に表明しているにすぎません。


1.事故調査委員会が欠いてはいけない7項目
 2005年に発表された「有害事象の報告・学習システムのためのWHOドラフトガイドライン」(以下、WHO DGL)が、世界各国での医療安全への取り組みの基本になっています。厚生労働省のウエブサイトにも引用されています。このWHO DGLの目的は、失敗を報告し、再発防止に繋げる「学習」です。そのためには、非懲罰性、秘匿性、独立性、専門家による分析、適時性、システム指向性、反応性――の7項目が重要であるとしています(表1)。

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