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集中検討会議「社会保障改革案」を読む
二木 立(日本福祉大学教授・副学長)(2011.6.20訂正)

2011/06/16

はじめに
 政府の社会保障改革に関する集中検討会議(以下、集中検討会議)は6月2日、「社会保障改革案」(以下、適宜「この改革案」)をとりまとめました。与謝野馨担当大臣は、これをベースにして、6月中に政府の改革案を正式決定する意向のようですが、同日に菅直人首相が辞任の意志を表明して以降政局が混迷を極めていることを考慮すると、それが実現するか否かは不透明です。そのため、本稿ではこの改革案の実現可能性の検討は行わず、医療改革部分を中心にして、従来の政策との異同に焦点を当てながら検討します。

 私が指摘したいことは4つあります。第1は、この改革案は、自公政権時代にまとめられた「社会保障国民会議最終報告」(2008年11月)の事実上の復活・復権であることです。第2は、医療保障の主財源は、従来通り社会保険料と考えられていることです。第3は、それ自体は改善と言える高額療養費制度の見直し、「総合合算制度」とワンセットで導入が予定されている「受診時定額負担」と「社会保障・税に関わる共通番号制度」には大きな問題があることです。第4は、医療・介護費は、今後、この改革案の「医療・介護に係る長期推計」よりさらに増加する可能性が高いことです。

「社会保障国民会議最終報告」の復活・復権
 まず、私がこの改革案が「社会保障国民会議最終報告」(以下、適宜「最終報告」)の復活・復権と判断する根拠は以下の3つです。

 第1は改革のスタンスが同じことです。「最終報告」は社会保障「『制度の持続可能性』とともに『社会保障の機能強化』に向けての改革に取り組む」ことを目指し、この改革案も「社会保障の機能強化を確実に実施し、同時に社会保障全体の持続可能性の確保を図るため…制度全般にわたる改革を行う」としています。第2は、両方とも、改革を行うことにより、社会保障費総額、医療・介護費とも、改革を行わなかった場合より増加することを明示したことです。この点は、社会保障費・医療費の(伸び率)抑制を最大の目標とした小泉政権時代の改革とまったく逆です。第3は、両方とも、混合診療の原則解禁等の医療分野への市場原理導入(新自由主義的医療改革案)を含んでいない点です。私はこれら3点は、大枠で妥当と考えます。

 実は、2009年9月に政権交代が実現した当初、民主党(政権)は「社会保障国民会議最終報告」やその「医療・介護の費用のシミュレーション」を全否定していました。鈴木寛参議院議員(医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟幹事長・当時)は総選挙直後から、それを「一旦なくす」と明言していました(「ロハスメディカル・ニュース」2009年9月2日)。そのため、しばらくは厚生労働省担当者が「最終報告」に触れることはタブー視されていました。しかしその後、厚労省・民主党(政権)内でタブーは徐々に弱まり、この改革案の発表により「最終報告」は完全に復活・復権したと言えます。ちなみに、この改革案の本文では2回、「医療・介護に係る長期推計」ではなんと13回も、「最終報告」に言及しています。

 逆に、この改革案の医療改革部分には「民主党政策集INDEX2009医療政策<詳細版>」で高々と掲げられた「総医療費対GDP比をOECD加盟国平均まで今後引き上げて」いくという数値目標はもちろん、「医療保険制度の一元的運用」も、全医療保険間の財政調整も消えています。これらは、民主党の医療政策と自民党のそれとの数少ない違いでした。この点は、この改革案で、年金制度改革に関しては、税財源の最低保障年金を含む「『新しい年金制度の創設』実現に取り組む」と書かれているのと対照的です。

消費税引き上げと「社会保険の枠組みの強化」
 次に、医療保障の主財源は従来通り社会保険料と考えられていることについて説明します。一般の新聞報道では、この改革案が社会保障拡充の主財源として消費税を挙げていることのみが注目されています。事実、この改革案には、「消費税収を主たる財源とする社会保障安定財源の確保」、「2015年度までに段階的に消費税率(国・地方)を10%まで引き上げ」ることが明記されています。この点は、「社会保障国民会議最終報告」が社会保障の機能強化のために「追加的に必要となる公費財源」については「消費税率換算」を示すにとどめていたのと比べて、大きく踏み込んでいます。と同時に、これは「税金のムダづかい」の見直しと埋蔵金の活用で、社会保障拡充の財源を捻出できるとした、民主党の2009年総選挙マニフェストの破綻を公式に認めたものと言えます。

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