日経メディカルのロゴ画像

日本政策投資銀行レポートの検証
医療ツーリズムの市場規模の超過大表示
二木 立(日本福祉大学教授・副学長)

2010/11/18

 菅直人政権が本年6月18日に「新成長戦略」を閣議決定して以来、各省庁の医療ツーリズムの取り組みが本格化しています。9月28日に首相官邸で開催された「国内投資促進円卓会議」では、「『国際医療交流(医療観光)』の推進」が提示されました。経済産業省、観光庁、厚生労働省も、来年度予算の概算要求に医療ツーリズム関連の施策を盛り込みました。

 これらの施策の根拠資料の「定番」となっているのが、2020年時点で医療ツーリズムの潜在需要は43万人、市場規模は約5500億円に上るとする、日本政策投資銀行のレポート「進む医療の国際化~医療ツーリズムの動向~」(2010年5月26日公表、執筆者は植村佳代氏。以下、「レポート」)です。

 このレポートは、世界とアジアの医療ツーリズムの動向をコンパクトに紹介しているだけでなく、「一定の仮定を置いて」2020年時点での医療ツーリズムの市場規模を試算しているため、一見非常に説得力があります。しかし、その根拠を精査したところ、推計・仮定の極端な過大表示が、少なくとも3つあることが判明しました。本稿では、この点を簡単に指摘し、医療ツーリズムが「成長牽引産業」とはなり得ないことを示します。

 なお、医療ツーリズムの市場規模については、経済産業省も「50万人の外国人患者の受け入れで約1兆円の経済効果が生まれる」との試算をしているそうです(「日本経済新聞」2010年7月1日朝刊)。しかし、日本政策投資銀行のレポートと異なり、これは根拠不明な「腰ダメ」の数字のようで、同省の担当者も最近はこれに触れるのを避けるようになっているため、検討に値しないと判断しました。

「純医療」の市場規模は1681億円
 第1の過大表示は、「医療ツーリズムの市場規模」5500億円との推計が観光を含んだものであり、それを除いた「純医療」はそれの3割に過ぎない1681億円であることです。

 医療ツーリズムの市場規模は「外国人患者への治療費」(OECD:Health at a Glance 2009, p.172)で表示するのが国際常識であることを考慮すると、5500億円は3.3倍もの過大表示です。公平のために言えば、「レポート」では、「医療ツーリズム(観光を含む)の市場規模」と書かれています。しかし、これの報道ではカッコ内の表示がほとんど省略されていますし、植村氏自身もこのレポートの解説論文では「純医療」の市場規模については触れていません(『エコノミスト』9月21日号「エコノミストレポート」等)。

 それでも1681億円は一見大きな数字にみえます。しかし、これは2020年度の推計国民医療費47兆円のわずか0.36%にすぎず、とても「成長牽引産業」とは言えません。なお、2020年度の国民医療費は、厚生労働省保険局「医療費等の将来見通し及び財政影響試算のポイント」(2010年10月25日)で新たに示された、2010~2020年度の国民医療費の年平均伸び率が2.2%との仮定に基づいて推計しました。

この記事を読んでいる人におすすめ