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ステロイドは進行癌の病態形成を抑制する
徳田 均(社会保険中央総合病院〔東京都新宿区〕呼吸器内科部長)

2010/04/16
徳田 均(社会保険中央総合病院呼吸器内科部長)

とくだ ひとし氏○1948年生まれ、73年東大卒。77年癌研究会付属病院、81年結核予防会結核研究所付属病院、87年結核研究所第二臨床研究科長、91年より現職。

 私は、一市中病院の呼吸器内科医として長年、肺癌患者の診療に当たっている。その中で、進行癌の多くの病態に炎症性サイトカインが関与しており、ステロイド薬が有効なのではないかと考えてきた。しかしこの点について、専門家による大きな展開を目にすることはなかった。

 従来から、緩和医療においてステロイド薬は使用されることはあったが、その位置付けは低く、余命が1~数カ月と判断された場合にのみ、中等量のステロイド薬(多くはデキサメタゾン)を経口投与するというものだった。つまり、ステロイド薬を使用する意義が炎症制御にあるという考え方は希薄だったと思う。

 1970年代後半以降に医師になった人なら誰でも知っている逸話がある。TNF-αというサイトカインの発見にまつわる一連の経過である。

 TNF-αは、tumor necrosis factor(腫瘍壊死因子)という名の通り、1975年にマウスに移植した腫瘍に対して出血性壊死を誘発させる物質として発見された。当初は、悪性腫瘍に対する「夢の抗癌剤」として大きな期待が集まった。しかしほどなく、悪液質を誘導する物質として研究されていたカケクチンと全く同一の物質であることが判明し、抗癌剤としての夢はたちまちしぼんでしまった。

 しかしその後、このサイトカインの生体における多彩な働きと重要性が次々と明らかになり、今では代表的な炎症性サイトカインの一つとして広く認識されている。即ち悪液質の形成に炎症性サイトカインが関与するという可能性は1980年代には既に示されていたのである。私が肺癌患者を診療するようになってから、このことは常に頭の片隅にあった。

 私は、眼前の患者さんを診るうちに、悪液質のみでなく、広く進行癌患者の病態形成(例えば、癌性疼痛の一部、癌性胸水の一部、肺炎の一部)にサイトカインの過剰状態が関与していることに気付いた。そして、これらの病態にステロイド薬が劇的に奏功すること、それは単なる末期病床でのQOLの改善だけにとどまらず、退院して希望ある生活が長期間(数カ月~1年余)にわたってもたらされる場合もあることを経験していた。

 そんな折、『日経メディカルCancer Review』(発行:日経メディカル開発) の2009年冬号の特集「癌緩和最後の課題 悪液質への介入―浮上した炎症制御の重要性」を読んだ。

 同特集の要点は、
1)癌の悪液質を構成する多くの症状(食思不振、体重減少、筋肉の萎縮など)の原因として、癌組織からのサイトカインの過剰分泌、それが引き起こす全身の炎症状態が注目されている
2)サイトカインとしてはTNF-α、IL-6などの関与が注目されている
3)検査値の中ではCRPがこの状態をよく表す
4)炎症性サイトカインは抗癌剤の効果を減殺している可能性もある
5)この病態は、末期癌だけではなく、癌のかなり早い時期から合併している可能性がある
6)栄養療法と、抗炎症療法により、これらの病態を制御できる可能性が検討されている
などである。進行癌の病態改善にステロイド薬が有効であることが、最近の研究により裏付けられつつあることが分かり、非常に喜ばしく読ませてもらった。

 現在私は、ある一定の条件を満たした症例に対し、連日経口投与ではなく、主にメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)の少量点滴投与を1週~数週に1度、という投与方法で治療を行っており、これまで、さしたる副作用を見ることなく効果を上げている。著効例を次ページ囲みに呈示したい。

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