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オバマ新大統領の就任演説を読む
二木 立(日本福祉大学教授)

2009/02/02

就任式で演説するオバマ米新大統領(写真提供:ロイター=共同)

 バラク・フセイン・オバマ氏は1月20日、アメリカの第44代大統領に就任し、クリントン政権以来8年ぶりに民主党政権が復活しました。オバマ新大統領の就任演説は、大統領選挙中に連発した「変革(change)」をほとんど封印し、アメリカが抱える未曾有の危機を直視した悲壮感漂うものでしたが、ブッシュ前政権の軍事・外交政策と経済政策からの転換を明確に宣言したものでもありました。

 本稿では、オバマ氏の大統領就任演説と同氏が大統領就任前後に発表した2つの文書を、医療制度改革に焦点を当てながら検討し、オバマ政権の下でも国民皆保険制度が実現する可能性はほとんどないことを示します。
 
国民皆保険制度には触れず、医療費抑制に焦点
 オバマ大統領は、20分弱の就任演説の中で、医療(ヘルスケア)について「2回半」言及しました。まず、演説の最初の部分でアメリカが「危機のさ中にある」と述べ、「危機の指標」として、戦争、経済、住宅、雇用の次に、「医療費は高すぎる」(our health care is too costly)と述べました。

 次に、「アメリカを再生する仕事」について述べたときに、雇用の創出、経済成長の新たな基盤を築くためのインフラ整備に続いて、「技術の驚異的な力を用いて、医療の質を高め費用を下げる」と述べました。それに続いて、小さな政府を否定した(後述)直後に、「各家庭がまっとうな賃金の仕事を見つけたり、支払い可能なケアを購入できる…よう、政府は援助する」と述べました。ここでは「ヘルスケア」ではなく「ケア」という用語を用いているため、0.5回とカウントしました。ケアを「医療・福祉」と訳している新聞もありますが、演説全体の文脈から、「医療」または「医療保険」と理解すべきと思います。

 以上から分かることは2つあります。1つはオバマ大統領が、国民皆保険制度の創設を政策課題には掲げていないこと、もう1つは大統領がアメリカ医療の危機を医療費の高騰と理解していることです。

 このようなスタンスは、オバマ氏が大統領就任直前の1月上旬に発表した「アメリカの回復と再投資計画」でも、1月24日の大統領就任後初めての公式演説でも一貫しています。前者では、5年以内に全カルテを電子化し、それにより「医療費のムダを削減し、お役所的形式主義を駆逐し、高価な検査の繰り返しを減らす」と述べています。これは、大統領選挙期間中に発表した医療政策の繰り返しですが、私の知る限り、電子カルテによりマクロの医療費を抑制できるとの実証研究はありません。1月24日の演説では、それに加えて、「800万人以上の医療保険を守る」と、一歩踏み込んで述べていますが、これは医療保険給付の対象拡大策ではなく、雇用創出と失業対策(失業者への医療給付継続)です。

 この点では、クリントン大統領が、大統領選挙期間中から、政権発足後100日以内の国民皆保険制度創設を公約し、大統領就任前の1992年12月にそれの骨格を発表し、大統領就任直後の1993年1月21日には、ヒラリー夫人を特別プロジェクトチームの責任者に任命したことと対照的です。ただし、クリントン大統領も、1993年の就任演説では、国民皆保険制度の創設には言及せず、「医療費の負担が家族にのしかかり、多くの大企業、中小企業を破綻させようとしている」と述べるにとどまっていました。この点では、医療費の高騰を「危機の指標」としたオバマ大統領と共通しています。

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