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ホメオパシー問題の解決を考える―緩和医療と癌ワクチン―
上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任教授)

2010/10/19

かみ まさひろ氏○1993年東大医学部卒業。99年東大大学院医学系研究科修了。虎の門病院、国立癌センター中央病院を経て2010年7月より現職。

※今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media)9月18日発行の記事(「『絶望の中の希望~現場からの医療改革レポート』第65回 ホメオパシー問題の解決を考える: 緩和医療と癌ワクチン」)をMRIC用に改訂し転載させていただきました。

医療界のホメオパシー否定
 8月24日、日本学術会議がホメオパシーを否定する声明を発表しました。記者会見の冒頭で唐木英明副会長は「この談話で一番重要なのは、ホメオパシーは科学的に否定されていることです」と明言したようです。翌25日には日本医師会と日本医学会、26日には日本助産師会と日本薬剤師会が同様の声明を発表し、いまや医療界はホメオパシー叩き一色です。

ホメオパシー叩きで患者は救われるか
 ホメオパシーとは、極度に希釈した成分を投与することで、自然治癒力を引き出そうとする「治療」行為です。200年以上前にドイツ人医師ハーネマンが提唱しました。

 過去に多くの臨床試験が行われましたが、いずれも効果を証明できませんでした。2005年にLancetに掲載されたメタアナリシスでも、プラセボ以上の効果はないとされ、科学者の間ではホメオパシーは疑似科学と結論づけられています。

 ホメオパシーの議論を聞いていて気になるのは、患者の視点が欠如していることです。日本学術会議は、科学的に否定されていることが、もっとも重要と考えているようですが、患者にとって医学的エビデンスは、医者が思うほどに大切ではありません。

 なぜ、患者たちはホメオパシーに走るのか?そこが問題です。現代医療に対する不信、不安、失望感など、様々な理由があるでしょう。ホメオパシー対策の根幹は、このような問題に対処することです。ホメオパシーを叩いても、次の疑似治療が出てきます。

 では、どうすればいいでしょうか。ホメオパシー問題を一発で解決できる特効薬はなく、解決は簡単ではなさそうです。最近、ホメオパシーが問題になることが多い癌医療で興味深い報告が相次ぎました。ご紹介させて頂きます。

緩和医療
 最初の報告は緩和治療の研究です。米国の多施設共同研究で、New England Journal of Medicine(NEJM)の8月19日号に掲載されました。

 この研究では、進行した肺癌患者を対象に、早期から緩和治療を行う群と通常の治療を行う群に無作為に割り付けました。その結果は驚くべきもので、緩和医療を早期に導入した群の方が、QOLが良いのは勿論、生存期間が延長しました(11.6か月 vs. 8.9か月)。また、鬱状態になる人は、58%も減ったようです。

 緩和医療とは畢竟、チーム医療です。主治医を中心に、精神科医、疼痛専門医、看護師、薬剤師などが協力して進めます。進行癌に悩む患者が、多くのスタッフによって心身共にサポートされれば、その転帰が改善するのも納得できます。

 緩和医療の導入により、患者の民間療養や疑似科学への依存度が変化するか否かは、今後の研究を待たねばなりませんが、その効果は十分に期待できます。

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