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団塊世代の退職で、医療はどうなるか?
上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任教授)(2010.9.6訂正)

2010/09/03

かみ まさひろ氏○1993年東大医学部卒業。99年東大大学院医学系研究科修了。虎の門病院、国立がんセンター中央病院を経て2010年7月より現職。

※今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media)8月11日発行の記事(『絶望の中の希望~現場からの医療改革レポート 第63回「団塊世代の退職で、医療はどうなるか?」』)をMRIC用に改訂し転載させていただきました。

山形県酒田市
 8月7、8日と山形県酒田市を訪問しました。地元医師会の本間清和会長と、大学時代の剣道部の後輩である前田直之氏(前田製管社長)が招いてくれたのです。

 兵庫県出身の私にとって東北は遠い存在で、過疎に悩む僻地のイメージがありました。ところが、彼らが案内してくれた酒田の街は随分と違いました。多くの蔵が並ぶ風景は、北前船で繁盛したかつての酒田を思い出させます。当時、「西の堺、東の酒田」と言われ、豪商・本間家は、「本間様には及びもせぬが、せめてなりたやお殿様」と唱われました。経済力だけでなく、文化度も高かったようで、清河八郎や大川周明など多彩な人材を輩出しています。庄内藩が戊辰戦争で最後まで官軍と戦ったのは、このような経済・文化の蓄積の賜だったのでしょう。

 本間氏や前田氏と話していて面白かったのは、彼らが真剣に酒田の復活を考えていたことです。政府へ陳情するだけでなく、長春やハルビンと人的ネットワークが構築されているのには、驚きました。酒田には、交流や貿易を尊ぶ気風があるのでしょうか。彼らの活動は、我が国の将来を考える上で示唆に富みます。

人口減少社会
 7月31日、総務省は我が国の人口は1億2705万人で、3年ぶりに減少したと報告しました。また、総人口に占める東京、名古屋、関西の割合が、過去最高の51%に達したことも明らかとなりました。この報道を読めば、都会への人口集中が進み、地方が衰退すると考えるのが普通です。

 ところが実態は、そんなに単純ではありません。むしろ、都市圏のほうが深刻と考えることもできます。それは、都会では、今後、高齢者世代が急増し、現役世代が減少するからです。このような現象は酒田市では起こりません。

 その原因は団塊世代の引退です。毎年270万人が引退するのに、110万人しか現役世代に加わりません。団塊世代こそ、高度成長期に田舎から都市へ移り住んだ人たちです。消費の主体は現役世代ですから、国内市場は急速に縮小します。その影響は東京や大阪で顕著です。伊勢丹と三越の統合や、阪神と阪急電鉄の合併などが、その象徴です。このあたりは、元マッキンゼー日本支社長の横山禎徳氏やエコノミストの藻谷浩介氏の著作に詳しく書かれています。

 ちなみに、団塊世代問題を抱えるのは日本だけです。ドイツ、イタリア、中国、韓国などにも同様の現象が起こっていますが、問題となる世代は40歳前後であり、当面は人口ボーナスが期待できます。丁度、バブル経済の頃の我が国の人口構成に似ています。また、米国や英国では、人口ピラミッドは「なかぶくれ」していません。戦争が、人口構成に大きな影響を与えているのかもしれません。

 人口問題は深刻な問題であり、我が国はまさに課題先進国です。国民的な議論が必要でしょう。この問題を考える上では、以下のサイトがお勧めです(http://www.census.gov/ipc/www/idb/country.php)。

団塊世代問題の医療界への影響
 「市場の縮小」の兆しは医療界にも見えます。私は血液内科を専攻し、特に骨髄移植を専門としています。造血細胞移植学会によれば、2008年の骨髄移植実施数は3506件で、2000年の2490件より41%増加しました。興味深いのは内訳です。50才未満は1853件から1869件と横ばい。一方、50歳代以上は637件から1637件に2.6倍も増加しました。

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