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医療と漫画の関係を考える
上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門准教授)

2010/06/30

かみ まさひろ氏○1993年東大医学部卒業。99年東大大学院医学系研究科修了。虎の門病院、国立がんセンター中央病院を経て2005年10月より現職。

※今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media)6月2日発行の記事(「『絶望の中の希望~現場からの医療改革レポート』第58回 医療と漫画の関係を考える」)をMRIC用に改訂し転載させていただきました。

メディアの多様化
 近年、医療を扱うメディアは多様化しています。例えば、新聞、テレビ、雑誌のような従来型メディアに加え、ネットメディア・ブログなどの新規メディアが発達しつつあります。さらに、映画テレビドラマ漫画でも医療が取り上げられることが増えました。6月封切りの映画『孤高のメス』や、話題になったテレビドラマ『JIN-仁-』など、ご記憶の方も多いでしょう。このようなメディアは、多くの国民に影響を与えていることが予想されます。

医療漫画
 特に、漫画は興味深い存在です。2006年度に出版された漫画単行本は10965点、漫画雑誌は305点に上ります。出版物全体の37%に相当し、その影響力は無視できません。また、漫画は日本が誇る文化です。「Manga」は世界中で通用し、多数の作品が海外で人気を博しました。例えば、『ドラゴンボール』『NARUTO』『BLEACH』『ONE PIECE』『鋼の錬金術師』『DEATH NOTE』が挙げられます。また、アニメでは宮崎駿監督の一連の作品や『エヴァンゲリオン』が有名です。

 最近、友人の医師から面白い話を聞きました。彼が指導している研修医から、「医師不足の原因は何か知っていますか?戊辰戦争の後遺症ですよ。モーニング(講談社発行の漫画雑誌)に連載中の『エンゼルバンク』に書いていましたよ」と言われたそうです。友人はJMMの読者ですから、この話は知っていました。驚いたのは、情報の入手先が漫画雑誌モーニングだったことです。ただ、落ち着いて考えれば、納得がいきます。どの病院でも、研修医部屋や当直室には漫画雑誌が置いてあるのですから、研修医が漫画の影響を受けるのは当然です。

医療漫画の研究
 医療界にとって、漫画は有望な媒体です。ところが、医療と漫画の関係については、あまり研究されていません。

 当研究室に、医療と漫画の関係に関心を持っているスタッフがいます。岸友紀子さんという医師・医学博士です。虎の門病院・国立がんセンター中央病院で血液・腫瘍内科医として研修し、その後、自治医大花園豊教授の指導のもとで、再生医療を研究しました。2008年4月から、私たちの研究室に合流し、医療と社会の関係について研究を進めています。今回は、彼女の研究成果をご紹介しましょう。

 漫画研究が難しいのは、データベースが整備されていないことです。ウェブ検索や、参考資料の孫引きを繰り返しながら、医療漫画を探さなければなりません。大変な手間を要した研究でした。岸さんは漫画・アニメが大好きです。好きこそものの上手なれ、彼女でなければ、実行できない研究でした。

医療漫画は手塚治虫から始まった
 医療を扱った最初の漫画家は手塚治虫です。彼は、1945年7月に、大阪帝国大学附属医学専門部に入学し、医学を学びます。そして、在学中から漫画を書き始めます。51年に大学を卒業し、52年には医師免許を取得します。その後、医師として診療することはなく、上京して、有名なトキワ荘に入居。漫画家として活動を始めます。

 手塚の最初の医療漫画は『きりひと賛歌』です。1970年4月から71年の12月まで「ビッグコミック」(小学館)で連載されました。手塚が医療漫画を書き始めたのは、漫画家としてかなりキャリアを積んでからです。

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