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山本病院事件に思う
井上清成(弁護士、井上法律事務所)、中澤堅次(済生会宇都宮病院院長)

2010/03/05

いのうえ きよなり氏○1981年東大法学部卒業。86年に弁護士登録、89年に井上法律事務所を開設。日本医事新報に「転ばぬ先のツエ知って得する!法律用語の基礎知識」、MMJに「医療の法律処方箋」を連載中。著書に『病院法務セミナー・よくわかる医療訴訟』(毎日コミュニケーションズ)など。

 山本病院事件は医師不足に引き続いて、もう一つの医療崩壊をもたらす最悪の事件だと思う。医療の遂行には信頼だけで成り立つ部分が多くあり、信頼関係の喪失がもたらす損害は計り知れない。再発防止の仕組みが必要だが、今の日本にはこの手の事件の再発防止に必要な仕組みが無い。

 医師会、学会、病院会は沈黙を保っており動きは鮮明でない。医師の自律が問われている状況で、再発防止は医の倫理に基づいて医師が行う必要がある。第二次世界大戦の反省から生まれた医の倫理に関する一連の宣言は、いずれも世界医師会が行っている。現時点では事の真偽が問題となろうが、とりあえず報道が全部本当だと仮定し、良い悪いを言わず、懲罰を目的とせず、再発防止だけの視点からあえて私案を提示する。

事件の経緯
 報道によると、山本病院は院長が理事長を務める医療法人であり、院長は心臓外科医である。生活保護を受けている男性に、良性肝腫瘍の手術が行われた。院長は適応外の手術を、経験も準備も十分でないまま施行し、その結果、大量出血を起こしまもなく死亡した。男性は十分に内容を理解しないまま、手術を受けている可能性があるとされている。院長は他にも入院者に対して不要な検査を行い、診療報酬を騙し取ったとして詐欺の嫌疑を受けているが、どういう病状で男性は同病院を受診し、自宅で生活できなかった理由が何かは明らかではない。

病人の利益にならない医療行為について
 病人の利益を目的としない医療は古くから存在し、事件があるたびに医の信頼に暗い影を落としてきた。第二次大戦で軍事目的の薬物実験に捕虜を使った歴史があり、戦後には営利目的で子宮摘出を行ったとされた富士見産婦人科事件があった。報道のままを事実とすると、今回は営利目的で不必要な手術が行われ病人が死に至ったことになる。

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