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高齢者医療制度厚労省素案の危険性
中澤堅次(済生会宇都宮病院院長)

2010/01/26

なかざわ けんじ氏○1967年慶應大医学部卒業。2004年より済生会宇都宮病院院長兼看護専門学校長。現在、慶應大医学部内科学教室客員教授、NPO法人医療制度研究会理事長。

 1月12日、日経新聞に高齢者医療制度に関する厚労省素案が公表された。厚労省が出す案はそのまま政府の案とは思いたくないが、厚生労働大臣了承の素案であれば多少問題がある。素案はたたき台だが、75歳を区切りとしていた年令を65歳に下げ、現役世代と分離する。高齢者に応分の負担を求め、企業と勤労世代の負荷を軽減し、財政管理は都道府県にさせるという。

 後期高齢者医療制度が不評を買った理由は、高齢者を年令で区切り現役世代から分離し、家族単位の保険料徴収を個人単位に切り替え、年金から自動的に天引きすることだった。自民党大敗の原因は医療政策の失敗だが、素案は失敗をそのまま引きずっている。

 民主党が同じ轍を踏まないように、勤労世代だけに負担を求める保険制度の矛盾と、高齢者医療を保険方式で賄う無理を指摘し、消費税による租税方式の併用でこの危機を乗り切ることを民主党に提言したい。

医療費の増額を国民が望まない理由
 今回の改定に見るように診療報酬のプラス改定に同意する人は、医療従事者を除いて、わが国にはいない。経済事情を見れば理由は明快だが、そのほかに国民皆保険による保険方式の制度疲労も考えられる。保険は将来のリスクを考えて自分のためにかけるという自助の色彩が強い。掛け金は将来の危機にそなえる貯金である。払った保険料は運用益を加えて病気になったときにただで掛かれるというのが筋である。

 健康保険は皆保険となったがゆえに、集められた保険料は医療費として病気の人に使われ、掛けた保険料は老後になっても自分に戻ってくるわけはない。詐欺まがいのシステムの中で負担感ばかりが増幅するからである。

医療費の大半は50歳以上の人たちのために使われる
 素案では若者の負担を軽くするために年令で区切り、高齢者は別立ての保険に加入させる内容だ。医療費の使われ方は世代に無関係と考えがちだが、実際には大部分が50歳以上の病人に使われている。これは高齢者の無駄使いではなく、純粋に寿命の問題で高齢者が病気になるからであり、マンパワーも費用もこの年代に集中される。だれもが理解する病気の年令差だが、素案の通り施行すると大きな矛盾に直面する。

年令で保険を分断すると組合健保が儲け、国民健保が割を食う
 素案によると、企業が運用する組合健保は65歳を超えると別の保険に移る。加入者は元気なときに保険料を払い、病気にかかりやすい年代になると保険が変り今までの掛け金は戻ってこない。65歳以後に加入する国民健康保険や高齢者医療保険はリスクの高い人だけを集めて運用するので最初から赤字は免れない。

 今でも市町村国保は収支が合わなくなるとそのまま加入者の保険料率を上げる構造になっており、組合健保と比較すれば保険料は明らかに国保のほうが高い。75歳以上を65歳以上に繰り下げると前期高齢者といわれた世代がさらに75歳以上の医療費まで抱え込むことになり、地方税から足りない分が補填されなければ制度が成り立たない。

誰も満足しない後期高齢者医療保険制度
 組合健保は自分達の社員以外に保険料が使われることは望まず、国民健保は保険料の高騰と滞納者の増加になやみ、自治体は一般会計からの補助金の増加に将来も苦しむことになる。

 この矛盾を回避するために国は税金から補填を行い、それでも足りない分は分離されている組合健保や国民健保から支援金として徴用することを明分化している。これは砂上の楼閣に耐震工事を施すようなもので、どこかの運輸会社のように組合健保の解散を呼ぶ。企業の立場はもともと自分の社員以外に保険料が流れることに同意する発想は無い。

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