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大学病院はもう限界 医療の最後の砦の現状
嘉山孝正(山形大学医学部長)

2009/12/28

独法化は医療を救うか、滅ぼすか
 特定機能病院は高度医療を開発、そして提供すると同時に、医師の教育を担う医療の中核を担う存在である。いわば、国立がんセンターなどのナショナルセンターと同じような機能を果たしている。現在、ナショナルセンターの独立行政法人化に向けて、内閣府の検証チームと厚生労働省との間でつばぜり合いが行われている最中で、着地点が未だ見えない。

 本稿では、一足先に独法化を行った大学病院の現状を紹介する。医療の最後の砦である大学病院は独法化後危機的な状況に陥ってしまっている。その原因は何かを考えて、その対策を提言したい。

大学病院が担うもの
 大学病院の役割として教育、研究、診療がある。たとえば教育だと我々は医学生を国家試験に合格させないといけない。研究でももちろん成果を出すことが求められる。そして、診療。大学病院は日本の医療の中核であると同時に最後の砦である。

 まずは日本の医療はどの程度のレベルなのかを確認する必要があるだろう。答えは、日本の医療は世界一であるということ。2009年のOECDのヘルスデータによれば、依然として総合で一位である。ちなみにアメリカは16位である。

 その「世界一」の医療の中で大学病院やその他の特定機能病院が担っているのが難易度の高い医療である。たとえば、手術を例にしてみると、生体肝移植のすべては大学病院で行われている。同じく難易度の高い、肝門部手術の82%は大学病院で行われている(DPC調査参加142施設における平成16年7月から10月までの退院患者データ)。そのほか高度医療の多くは大学病院が担っている。つまり、大学病院は手間のかかる難易度の高い医療を最後の砦として行っているのだ。

大学病院が死ぬ、いや、もうすでに死んでいる
 難易度の高い治療には多くのスタッフが必要になる。また、高度な医療機器や薬剤も必要になる。かといって、それに比例して診療報酬が上がるわけではなく、足りない分は病院が持ち出すしかない。つまり、難しい医療を行えば行うほど、大学病院は赤字を背負うことになるのが現状である。

 私は脳外科医である。先日行った、脳腫瘍摘出のために覚醒下脳手術を例に挙げよう。言語を司る部分の近くに脳腫瘍ができてしまったため、言語中枢を探しながら、かつなるだけ傷つけないようにするために、手術中も患者と話しながら、切除を行うという、最先端の手術である。手術は成功し、患者は元気に帰っていった。しかし、病院には16万円ほどの赤字が残った。脳腫瘍摘出術の保険点数は82万円分だ。これは、比較的少人数で行われる難易度の低いものも、今回のような難易度の高いものも一律である。

 しかし、実際は機器使用料として48万円、最低必要なスタッフ13人分の人件費26万円、消耗治療材料として24万円で合計98万円が必要になった。そして、差額の16万円が病院の赤字になった。次に説明するように、人件費はこれ以上切り詰められないぐらいに圧縮してあるのに、これだけの赤字がでるわけである。

 他にも急性大動脈解離、心筋梗塞、難しい小児救急疾患、ハイリスク分娩など、大学病院が引き受けている不採算医療は枚挙に暇がない。これでは大学病院は立ちゆかない。最後の砦はまさに落ちる寸前なのだ。

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