日経メディカルのロゴ画像

「それって、新型ですか?」―やっぱり蔓延した「新型インフルエンザ愚策」
木村知(有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役、医学博士)

2009/12/24

 2009年の新語・流行語大賞が発表された。大賞は「政権交代」であったが、「新型インフルエンザ」がトップテン入りし、木村盛世さんが受賞されたのは皆さんもご存知のことと思う。これは木村さんの今までのご活動が広く一般大衆に浸透したことによるものであろう。

 しかし、せっかく流行語に選ばれた言葉ではあるが、そろそろこの「新型インフルエンザ」という言葉の「流行」を終わりにできないものであろうか。「インフルエンザ」という疾患自体の流行は、毎年の流行状況を考えれば、むしろこれからがシーズン本番であり、少なくともあと数ヶ月は続くと予想されるが、このところのように寒くなって空気も乾燥してくると、他の多くの発熱性疾患も増えてくる。しかし、日々診療していると、いまだに「新型インフルエンザ」だけに皆の意識と興味、心配が集中しすぎているのを強く感じる。

 そもそも実際の臨床現場では「新型インフルエンザ」と「季節性インフルエンザ」は簡易キットによっても区別できない。現場で実際インフルエンザ診療に携わっている医療者にとっては当たり前の常識であるが、意外なことに、まだ多くの国民はそのことを知らないようだ。しかもメディアの影響からか、「新型」なのか「季節性」なのかを区別しなければならないとすっかり思いこまされている。

 その証拠に、患者さんに簡易検査の結果「インフルエンザ陽性」を宣告すると、ほぼすべての患者さんに、「それって、新型ですか?」と問われるし、驚くべきことに、「登校許可書」の疾患名の欄に「インフルエンザ」と「新型インフルエンザ(H1N1)」を区別して記載したものを作成している教育機関まで出現し、どちらか判断せよと言われてしまう始末だ。

 そして、それらの問いや要望に対して、一般の診療所、病院では「新型」「季節性」の区別はできないが、現在流行っているものはそのほとんどが「新型」といわれるものであると思われているということ、現在まで多数の「(おそらく)新型インフルエンザ感染者」を診療してきた経験からは治療に当たって別段区別する必要もなさそうであること、「新型」であっても「季節性」であっても大切なのはその患者さんの全身状態なのであって、その診断名ではないこと、をその全員に説明することになるのである。

 それはそれでけっこう大変なことなのであるが、今それ以上に重要な問題であると思われるのは、「新型インフルエンザ対策」と称する根拠のない、自前の感染対策が企業のBCPや教育機関で「乱用」されているということである。

 「季節性」は怖くないから感染対策も神経質になる必要性ないが、「新型」は恐ろしいから家族に一人でも発生したら登校、出勤停止をすべきだなどという、医療者であればどう考えても理解に苦しむ考え方やローカルルールが企業や教育機関ではいまだにまかり通っており、しかも野放し状態となっている。そして現場ではそのルールにいちいち対応しなければならないという、無駄な労力を強いられている。

 先日も、兄がインフルエンザに罹ってしまったのであるが、その子がもし「新型」であれば同居の元気な弟も、兄の「治癒証明」が出ないかぎり休ませなければならないという学校のルールがあるので、「新型」であるかを知りたい、そして「新型」ならば一日も早く、兄の治癒証明を出して欲しい、と保護者が懇願しに来た。

 教育委員会に問い合わせてみると、「家族に感染者がでた場合、同居の家族の登校については、なるべく自粛をお願いしているが、決して強制ではない」とのこと。そして、自粛した場合は欠席扱いにはしないが、休む期間や「治癒証明書」の発行を必要とする、という規定など一切していない、とはっきり回答された。

この記事を読んでいる人におすすめ