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事業仕分けと医療政策
中村利仁(北大大学院医学研究科医療システム学分野助教)

2009/12/11

 日本の医療問題の原因の過半は、資源の過少投入それ自体と、結果としてアクセスの維持が困難になっているところにあります。およそ事業仕分けという作業にはそぐわなかったと言えましょう。今後の議論は、医療サービス市場が拡大されるべきか否かに集中される必要があります。

 事業仕分けのルーツを探ると、New Public Management(NPM)があるように思います。NPMは公共サービスと行政府が不可分のものではないと考えるところから出発します。そして、公共サービスを政策立案の「舵取り」の仕事と、サービスの提供そのものと法令遵守を監視する「漕ぐ」仕事の二つに分離します。次に、後者を行政府の外に出して大幅な権限を与えたエージェンシー(ほとんど経営上の制約のない一種の公企業)とします。その上で、エージェンシーに対して業績目標を与え、そこに説明責任を求めていきます。

 事業仕分けに相当する作業は、イギリスでは20年ほど前、サッチャー政権の後期にもっと大規模かつ根本的な形で行われています。1988年、イギリスではマーガレット・サッチャー首相が登用したピーター・ケンプ卿によって「目標は公務員の75%をエージェンシーに移籍させることである」と発表され、「大蔵省は全ての省に対し、自らが持つ各機能を再評価し、(1)廃止、(2)売却、(3)下請け、(4)エージェンシー化への転換、(5)現状維持、の選択肢から一つを選ぶように要請」[1]、[2]しています。この目標は保守党政権の終焉までにほぼ完了しています。

 ただし、このサッチャー政権の事業仕分けが失敗した最大の分野の一つが国営医療サービス(NHS)であり、その主たる原因は資源投下不足にありました。事態の若干の改善には1997年のブレア政権登場を待たねばなりません。そして、また、ブレア政権が医療費の大幅拡大に際して採用した戦略もまた、NPMでありました。NPMはサッチャー政権とアメリカのレーガン政権下で発明され、ブレア政権とアメリカのクリントン政権下で一層の発展を遂げていきます。

 NPMの特に事業仕分けのような手法は、行政府の非効率性を改善するところに特徴があります。従って、公共サービスへの資源投下が充分で産出の不足に主たる問題がある領域では非常に有効です。しかし、資源投下が不足している局面では無効です。サッチャー政権の医療改革が失敗したのはある意味で当然であったと言えましょう。

 ブレア政権が採用したのは確かにNPMの戦略ですが、NHSでは医療費と人材の投入を様々な方法で増やす中で、あらためて目標と説明責任を求めていったという大きな方針転換がありました。

 さて、外科医としてスタートした臨床医であり、また医療政策と医療経済及び医業経営を専門とする研究者として、自分は現在の医療制度や病院経営の内実が好ましい方向にあるとは全く思っておりません。

 特に診療報酬制度については、いつまでも原価プラス型の、つまりは現状追認型の価格制度を全国一律で維持しているが為に、全体的にも地域的にも、特に人的資源の不足がいつまでも解消されず、悪化の一途を辿っています。また、新規医療技術の導入が抑制される結果となっています。

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