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薬価維持特例制度でドラッグラグは解消しない
辻 香織(慶応大グローバルセキュリティ研究所研究員)

2009/12/21

 ドラッグラグ未承認薬の取扱いに関する議論が再燃している。かつてドラッグラグの原因については、「PMDAの審査が遅いから」、「日本企業が海外に出て行ってしまったから」、「治験が空洞化しているから」などなど様々な迷信が流布してきた。ここ数年の間にいくつかの研究結果が報告され、ラグの主要な構成要素は日本での開発着手の遅れであることが漸くコンセンサスとなってきた。

 筆者の研究でも、1999年から2007年に米国、EU、日本のいずれかで承認された臨床的に重要な新医薬品(既存治療に比べ明らかに高い有用性を有するとして審査上の優遇措置を受けたもの)135薬剤のうち78薬剤、約6割については、海外で承認になった時点で日本でのアクションが起きていなかった(1、2)。

 当然、製薬企業はなぜ日本での開発を早く始めないのかという話になる。そして新たに登場したのが「日本は薬価がだんだん安くなる魅力のない市場だから、儲からないから、製薬企業は後回しにする」という迷信である。

薬価算定の仕組みは確かにおかしい
 この「薬価がだんだん安くなる」は本当である。薬価は、承認申請時に提出された臨床試験結果に基づいて算定される。承認前に収集されたデータはわずかであり、市販後に新たな情報が付加され、その実質的な価値は変わってくる。承認前には分からなかった副作用が見つかる場合もあれば、臨床での実績が積まれるにしたがって有効性がより明確になる場合もある。承認された適応症以外の疾患に対する有用性が明らかになることもしばしばある。

 本来、医薬品の価格にはその「価値」が反映されるべきと考えるなら、承認時に算定された薬価が、定期的な薬価改定を経て自動的に下がっていく仕組みは確かにおかしいのである。

 そもそも承認時の薬価算定の方式自体、医薬品の「価値」が適正に反映される仕組みになどなっていない。画期性があれば最大120%加算、有用性が高ければ最大60%加算などと決められており、その数値も薬剤経済学的な分析に基づいたものではなく適当である。

 これらの類似薬効方式とは考え方の異なる原価計算方式(開発・製造コストに基づいて製薬企業の営業利益率がある範囲内になるように算定するもの)が併存しているかと思えば、最終的に海外の価格との間にあまり差が生じないような調整も行う。その医薬品にどのくらいの「価値」があるかをきちんと算定しようというポリシーがないのだ。

薬価維持特例制度とは
 このような課題山積の薬価制度改革議論にあって、製薬団体はなぜか「薬価維持特例制度」の導入を強硬に主張している。これは「画期的な新薬の薬価を後発品発売まで維持し、その後の後発品の発売に合わせてそれまで維持した分の薬価を一括して引き下げる」というものだ。

 つまり、「せっかく良い薬を出したのに、薬価改定でだんだん安くなるのではたまらない。後発品が出るまではそのままにして利益を確保させてくれ。そのかわり後発品が出たらその分下げていいから」という意味だ。後発品対策の何物にも見えないが、製薬業界の主張としては理解可能である。

 しかし驚くのは、その背景としてドラッグラグの問題を持ち出し、「画期的新薬に適正な薬価がつき、その価格が維持されて利益が確保されれば、インセンティブがつき研究開発投資が促進されるので、ドラッグラグがなくなる」という飛躍した議論を展開していることだ。

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