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医薬品の安定供給のためにすべきこと
成松宏人(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門客員研究員)

2009/12/01

なりまつ ひろと氏○1999年名大医学部医学科卒業。2008年名大大学院医学系研究科分子細胞内科学(血液・腫瘍内科学)修了。2008年4月より現職。

薬剤不足と公衆衛生
 The New England Journal of Medicine (NEJM)誌10月15日号に「薬剤不足と公衆衛生」と題した論説が掲載されました。NEJM誌は言わずとしれた、世界の代表的な医学学術誌の一つです。今回の論説では代謝疾患の治療薬や、検査薬の供給停止問題をとりあげて、今後、供給不足の問題にどのように対応していくか考えていく必要性を指摘しています。

 日本においても今年初めに、骨髄移植に必要な骨髄フィルターが欠品した問題は大きな騒ぎになりました(2009.10.17「『骨髄フィルター騒動』を振り返る―ガバナンスの欠如とアカデミズムの危機」)。これを教訓にして、薬剤の供給停止に対する危機管理体制の必要性が指摘されていますが、残念ながら議論は深まっていません。さらにその後も重要な医薬品・医療機器の欠品が日本においても次々に明らかになってきています。

 そこで本稿では、NEJM誌の論説や、骨髄フィルター問題以降におきた欠品問題を振り返り、どのような危機管理をしていくべきなのか考えたいと思います。

NEJMの指摘するもの
 医薬品が突然供給停止になる原因は様々なものがあります。そして、それは突然やってきます。原因としては経済的な事情、テロや戦争によるもの、インフルエンザなどの感染症のパンデミックなどが代表的なものです。

 NEJMの論説ではまずCerezymeというGaucher病の治療薬とFabrazymeというFabry病の治療薬の欠品が取り上げられました。Gaucher病、Fabry病ともに生まれつき必要な代謝酵素が欠損する病気で、二つの治療薬はその欠損した代謝酵素を補充する、患者さんにとっては必須の薬剤です。

 今年6月、米国マサチューセッツの製造施設内でこれらの治療薬を生産するために使用する培養細胞がウイルスに感染してしまい、治療薬の生産が出来なくなってしまったのです。これにより、突如として深刻な欠品問題が生じました。11月頃になると見込まれる生産再開までの間は、患者の病気の重症度に優先順位をつけ、在庫をより重症患者にまわすことで調整したり、投与量を調整して節約するなどの対処法が取られました。

 他にも、この論説ではtechnetium-99mの世界的な不足についても取り上げられています。これは、主に心臓などに使用するシンチグラフィー検査の必須の物質です。これらを精製する複数の施設が、施設内の機械トラブルや施設のメンテナンスで操業することが出来なくなり欠品を起こしました。

 このような出来事をふまえた上で、この論説では非常事態に対応するための計画の必要性が訴えられました。

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