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今、新型インフルエンザにどう対応すべきか
岩田健太郎(神戸大都市安全研究センター医学研究科微生物感染症学講座教授)

2009/10/16

 新型インフルエンザへの対応法が多く議論されています。いろいろなご意見を伺っていて、私がずっと考えたことをこの場で申し上げさせてください。

1.まず、思い出したいのは、新型インフルエンザ、豚由来インフルエンザA(H1N1)は今年3月に発見されたばかりの見つかりたてほやほやの疾患だということです。

 私たちは多くの病気と取っ組み合いますが、各々の疾患について長い間研究が重ねられてきました。大抵は何十年という年月です。けれども、私たちは未だにアルツハイマー病の決定的な治療法を知らず、脳梗塞時の決定的な至適血圧を知らず、理想的なコレステロール値を知らず、全ての年齢層におけるうつ病の最良の治療法を知らず、多くの進行癌の治癒法を知りません。

 疾患の理解には長い年月をかけた基礎的な研究が必要になりますし、治療法や予防法の開発についてもそうです。臨床的に、実際に現場で患者さんに役に立つか、という議論になるとさらに長い年月をかけた検証(≒臨床試験)が必要になります。予防接種の有効性や安全性の検証にも時間がかかります。

 季節性インフルエンザの有効性については未だに多くの議論がありますし、麻疹ワクチンの安全性についても何十年と議論がありました。エイズや結核、マラリアというコモンな疾患に対するワクチンの実用化はようやく夜明け前と言ったところです。

2.そんな中で、新型インフルエンザです。まだ見つかって半年あまりのこの疾患、そして原因となるウイルスについて、我々は多くのことを知りません。

 予防接種については接種により抗体が産生されること、健康な方に接種するとわりと副作用が少ないことが分かってきました。国内産のワクチンについては、有効性も安全性もまだまだ未確定で、臨床試験すら行われていません。effectiveness、本当のワクチンの持つ意味については、やってみないと分からないところも大きいでしょう

 国外の輸入ワクチンについても臨床試験の中間データが発表されたまでで、「抗体がある程度できる、健康な人を対象とすれば」「わりと安全」ということを我々は知っています。しかし、それ以上のことは知りません

 妊婦や基礎疾患のある方など、多様な方へのデータはまだ検証不十分です。抗体が出来ることと実際に感染症を防御したり、症状を緩和したり、入院・死亡といった大きなアウトカムに寄与するかどうかはまた別の問題で、これにはもっともっと時間が必要でしょう。日本での臨床試験も始まったばかりです

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