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「骨髄フィルター騒動」を振り返る―ガバナンスの欠如とアカデミズムの危機
成松宏人(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門客員研究員)

2009/10/17

なりまつ ひろと氏○1999年名大医学部医学科卒業。2008年名大大学院医学系研究科分子細胞内科学(血液・腫瘍内科学)修了。2008年4月より現職。

【危機管理としての情報開示】

 最近問題になった「骨髄フィルター騒動」における 情報開示のあり方が臨床現場に及ぼした影響について筆者らの研究グループがまとめた論文がBiology of Blood and Marrow Transplantation誌電子版(アメリカ造血細胞移植学会の学会誌)に9月16日付けで公表された。

 日本の国内問題であるにもかかわらず、米国の専門分野の一流紙が掲載することは異例であり、情報開示についての関心が国際的にも高まっていると考えられる。そこで、本稿ではこの研究について紹介するとともに、「危機」へのどのような対処がなされたのかを振り返りたい。

【骨髄フィルター騒動】

 2008年12月、日本においてバクスター社製の骨髄フィルターの供給停止が明らかになった。このフィルターは、骨髄移植の際に骨髄液のろ過に用いられ、骨髄液注入と関連した血栓症の予防に必須のものである。ベンチャー企業が生産する代替品があるが、米国では承認されていたものの、日本では未承認であった。つまり、骨髄フィルターの供給途絶により非血縁者間骨髄移植の全面停止をもたらす可能性が持ち上がったのである。在庫を考慮すれば、3月中には骨髄移植が行えなくなることが予想された。

 この問題は、最終的には2009年2月26日に厚労省が代替品を迅速に承認したことで解決した。しかしながら、この間、日本では骨髄フィルターの供給途絶問題はマスメディアを通じて広く報道され、国民の大きな関心を集めた。問題となったのは、代替品の確保、日本国内で使用する際の患者の経済的負担の二点である。

 特に、後者は日本特有の問題である。日本では、全ての国民が何らかの公的医療保険に加入しており(国民皆保険)、その運用は厚労省がコントロールしている。未承認の医療機器を用いる場合、原則として、医療費全額を自費で負担しなければならず、公的保険と併用することができない。今回の場合、代替品を患者が個人輸入して使用すれば約1000万円の自己負担が発生するため、多くの患者は骨髄移植を受けることができない。

 この問題を解決するためには、厚労省が従来の医療保険支払いの方針を変えるか、あるいは、代替品が短期間で厚労省に承認される必要があった。これまでの厚労省の施策、および残された時間を考えた場合、いずれも現実的でなく、多くの患者・医療者は絶望的な状況に陥ったのだ。

【全くなされなかった情報開示】

 輸入した代替品の経済負担をどのようにするかは、厚労省に決定する権限がある。この点は患者が最も懸念を示している点であった。しかし、厚労省はこの問題が明らかになってから、1ヶ月もの間公式な情報開示を行わなかった。そして、1月23日になって初めて、厚生労働省は代替品を迅速承認し公的健康保険で支払うことを示したのだ。

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