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副作用被害補償と訴訟の選択権を考える
先進国並みの医薬品・ワクチンを使いたいですか?
村重直子(厚生労働省大臣政策室政策官)

2009/09/11

 ※厚生労働省の公式見解ではなく、一人の医師としての見解です。

【新型インフルエンザワクチン、まずは量の確保を】

 新型インフルエンザの重症化予防や死亡者数を減少させる可能性をもつ方法として、ワクチンに大きな期待が集まっています。スペイン風邪などの過去の新型インフルエンザと、今回の新型インフルエンザが決定的に異なるのは、ワクチンという医学の進歩の恩恵を受けられる可能性がある点です。

 先進諸国は競ってワクチンを確保しようとしています。ワクチンを接種するか否かの判断が、最後は国民一人ひとりに委ねられるとしても、まず国として確保しておかなければ、接種するかどうかの選択もできません。政府の役割として、全国民分のワクチン確保を目指すべきと考えるのが、国民の命を預かる公衆衛生の基本です。予算や生産量など現実の制約から、全国民分は不可能かもしれませんが、できる限りたくさん用意すべきなのです。

 ところが日本は、公衆衛生を担うはずの厚労省の医系技官が勉強不足であるために、この基本方針すら定まっていません。国内メーカーの生産量では最大1700万人分しかなく、全国民1億2700万人の1割強しかカバーできないのですから、当然、輸入するしかないにもかかわらず、医系技官は、国内の小さなメーカーとの護送船団方式を守ることに執心しているかのようです。医系技官は、輸入見込み分も合計して5300万人分(国民の4割強)必要と発表しましたが、この数字の根拠は、なんと、妊婦など推定されるハイリスク者の人数を積み上げた数字だというのです。これでは医系技官は専門家とは言えず、存在意義を問われても仕方ありません。

 医系技官の抵抗を押し切って、舛添要一厚生労働大臣の英断が下りました。8月29日、遊説先の愛知県豊橋市で、「6000万人から7000万人分のワクチンは確保できると思う。」と発言し、国民のほぼ5割分を確保できる見通しとなりました。

【ワクチンのリスクとベネフィット】

 まずは量を確保する一方で、副作用のない薬やワクチンはないのですから、新型インフルエンザのワクチンにも副作用リスクがあることを考えなければなりません。それでも、新型インフルエンザで死亡する確率のほうが、ワクチン接種後に命に関わる副作用が起こる極めて稀なリスクより、ずっと大きいだろう、つまりベネフィットの方が大きいと見込まれるから、世界中の専門家たちがワクチン確保に躍起となっているのです。

 もちろん、新型インフルエンザの致死率や、ワクチンの治験データなど、今後も新たな情報が次々出てくるでしょうから、ワクチン接種を受けるのが良いかどうか、あるいは接種の優先順位について、状況に応じて臨機応変に対応する必要があります。国民一人ひとりの判断材料や心の準備のためにも、十分な情報公開と、オープンな議論を続けることが重要です。

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