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僕は医者になって楽しむ―小鷹昌明著『医者になってどうする!』を読んで―
森田知宏(東大医学部四年)

2009/08/28

 2009年8月10日に獨協医大神経内科の小鷹昌明(おだかまさあき)先生が、『医者になってどうする!』(中外医学社)という著書を出版された。先生は、これまでにも医療の現状に関して、何冊かのエッセイを出版している。前著では、患者や医療者、一般の人々に向けてのメッセージが中心であったが、今回は僕ら医学生や医学部を目指す高校生に向けて発信されていた。とても興味深く読ませていただいたので、感想を述べたいと思う。

 「医療を良くするために努力する」、僕の目標とする医療者としてのアジェンダ(行動指針)である。だが、人の命を救う医療が、誰かの犠牲のもとで成り立っているのならば、それは正しい医療ではないと思う。つまり、提供する側も享受する側も皆、win-winとなる医療を目指すべきだと考えている。

 ヒポクラテスの誓いが金科玉条のごとくもてはやされ、医者が患者に対して滅私奉公することをさかんに求める。医療を良くするための行動が、自分個人のことよりも優先されるべきであるということは、医者として確かに当たり前かもしれない。しかし、それをどんな医療者にも全員に押し付けることはエゴではないか(誰のエゴなのか、清貧を重んじる医者なのか、いい医療を欲する患者なのか、案外、医療制度の設計者のエゴなのかもしれない)。各個人のできる範囲で、できるだけ医療を良くするべく努力をすればいいのではないか。

 また、医療は持続可能でなければならないとも思う。自分の生きた時代はなんとか持ちこたえられたとしても、次の世代で医療が後退するようなことがあれば、自分の世代が医療を良くしたとは言い難い。誰かの犠牲のもとで成り立つシステムは脆い。医療崩壊についてはさまざまなことが議論されているが、医学生もしくは医学部を目指す高校生が何を考えなければならないかについては、あまり語られていない。彼ら(僕ら)に根性論を振りかざしてみたところで、大半は冷めてしまうし、医師になる道を断念するものもでてくるのではないか。

 そのような考えを持ちながら医学部に通っている僕が出会った本が、小鷹昌明医師の書かれた『医者になってどうする!』(中外医学社)であった。医者を目指す僕らを対象に医療の現状を訴えかけていた。若者向けの本の多くはどこか気取っていて、いい面ばかりが強調されたり、変にメッセージ性を出そうとしたりしていて、あまり好きでなかったのだが、この本は違っていた。驚くほど正直に作者の本音が書かれていた。「医学生のエゴだ」「医師になっていないのに偉そうなこと言うな」僕が同様なことを言ったのならば、そう思われるかもしれないが、作者は十五年目の医師である。経験や実績に裏打ちされたその言葉には、僕が考えていることよりはるかに説得力があった。

 本著の特徴として、まずきれい事が書かれていなかった。医者としての悲痛な思いが随所に表れていた。たとえば、「医学部を卒業した直後には、これから患者さんのために働こうとどんな医師でも思う。しかし、卒業後3、4年すると患者は常に医療を必要として、困って病院に訪れるわけではないことに気付く。…ともすると、患者不信の気持ちが優位に立ってしまい、その後もそのままの気持ちで医療を行った場合には、医師にとっても患者にとっても不幸である」と書かれている。

 このような苦悩の中で、作者自身は「患者の臨終の瞬間に立ち会うことで身が引き締まる思いを維持させ、初心を取り戻した」と述べている。さらに医者は、人生において大きな葛藤を抱えていると指摘する。僕がもっとも印象に残った部分は以下である。

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