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新型インフルエンザワクチンで薬害を起こさないために
上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門准教授)

2009/08/23

かみ まさひろ氏○1993年東大医学部卒業。99年東大大学院医学系研究科修了。虎の門病院、国立がんセンター中央病院を経て2005年10月より現職。

※今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media)8月12日発行の記事(「第37回 新型インフルエンザワクチンで薬害を起こさないために」)をMRIC用に改訂し転載させていただきました。

 新型インフルエンザに関する報道はめっきりと減りましたが、患者数は夏の間も増え続けています。8月4日、世界保健機構(WHO)は全世界の死亡者数は1,154人に上ると発表しました。この中で、まだ死者が出ていない日本は驚異的ですが、日本で死亡者が出るのは時間の問題でしょう。

 ちなみに、季節性インフルエンザでも毎年約1万人が死亡していますし、過去の経験から、2~3年もすれば、新型インフルエンザはそのまま季節性インフルエンザとなって流行を繰り返すと言われています。もっと、長期的視点に立って、新型インフルエンザ対策を考えたいものです。今回は、新型インフルエンザワクチンが抱える問題について、ご紹介したいと思います。

【エビデンスのない新型インフルエンザワクチン】

 厚労省は、秋から冬にかけての流行に備えて、新型インフルエンザワクチンの購入を検討しています。このような報道を見て、皆さんは、「ワクチンは接種するのが当然だ。接種すれば感染を防げる」とお考えではないでしょうか。

 意外かもしれませんが、季節性インフルエンザワクチンには、あまり予防効果はありません。重症化を防ぐ可能性があると言われていますが、それも100%ではありません。その効果は、ワクチンの型が合っていない場合10~30%、型が合っていても40~80%程度です。

 実は、厚労省が季節性インフルエンザワクチンの有効性を認めて、予防接種法に位置づけているのは、65歳以上と基礎疾患のある人だけです。裏返せば、厚労省は、それ以外の人々には定期接種するほどの安全性・有効性は明らかではないと考えていることになります。

 では、新型インフルエンザワクチンの効果はどうでしょうか。新型インフルエンザワクチンも、季節性インフルエンザワクチンと同程度の効果と推測されていますが、世界中で初めて使うのですから、どの国もどの製薬企業も、十分なデータを持っていません。既に治験を始めている国もありますが、治験では、少数の患者を対象に、短期間しか観察できませんから、長期的な有効性や稀な副作用に関して十分な情報を集めることが出来ません。つまり、新型インフルエンザワクチンに関しては、有効性も安全性も、よくわからないまま使おうとしていることになります。

【副作用は避けられない】

 このように考えると、我が国では、十分な議論をしないまま、エビデンスのないワクチンが多数の国民に接種されようとしていることになります。仮に、副作用の頻度が0.01%~0.001%程度であったとしても、数千万人にワクチンを接種すれば、数百人~数千人に副作用が起こり、重大な社会問題を引き起こします。

 もし、新型インフルエンザの致死率が高く、ワクチンによる救命が期待できるなら、接種は合理的です。しかしながら、現時点で有効性・副作用に関する情報は限られています。誰もワクチンのリスクとベネフィットを天秤にかけることが出来ません。

 このような状況の中、WHOは、ワクチンを大規模に接種すれば、副作用は避けられないと明言しています。さらに、各国が少数のデータで迅速承認するのであれば、安全性への配慮を忘れてはならないと警告しています。これは、WHO内にいる公衆衛生の専門家たちの発信ですが、専門家としての誠意を感じます。

 ところが厚労省は、ワクチンの安全性について、国民に一切説明していません。あたかも、「すべてのワクチンには必ず副作用リスクがある」という当たり前のことを「隠して」いるように見えます。この点は、WHOの専門家とは対照的で、厚労省内で新型インフルエンザ対策を企画・立案する医系技官は、医師として大きな問題があると言わざるを得ません。

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