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統合医療の確立ならびに推進をうたった民主党マニフェスト
渡辺賢治(慶應大医学部漢方医学センターセンター長)

2009/08/21

●医療と社会とのつながり

 総選挙を前にして各党のマニフェストを比較する記事が増えている。8月9日にも有識者らの「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)が「政権公約検証大会」を開き、経済同友会、連合、日本青年会議所、PHP総合研究所、言論NPO、日本総合研究所、高総日本、チーム・ポリシー・ウォッチの8団体が自民、民主両党の次期衆院選マニフェストを評価した内容がホームページ上で公表されていた。

 今まで医師は日常診療に追われ、忙しくしていたために、マニフェストなど読む暇はないのが美徳と考えられていたが、一連の医療崩壊を招いた原因として、あまりに社会と隔絶した医師の態度が非難された。すなわち、常識では考えられない過酷な労働に対して、SOSを出すことなく、燃え尽きるまで働き続けた医師に対する批判である。医療が社会サービスの一環であるのであれば、社会の動向と軌を一にした内部変革も必要であろう。

 かく言う私も政治には全く暗い医療者の一人である。しかしながら、上記のような目で、少なくとも医療政策にだけは目を通してみたところ、自民、民主の医療政策の精緻さにはかなり違いのあることが分かる。是非とも医療者が読んで自分の分野での意見を活発に出されることを期待する。

 ここでは自分の専門である漢方医学民主党マニフェストで触れられていることに驚き、本稿で私見を述べてみたい。

●民主党医療政策(詳細版)

 注目したのは民主党医療政策詳細版である。ここには自民党のマニフェストには見られない詳細な医療政策のロードマップが示されている。どれもが納得できるよくできた内容であるが、その中に「統合医療の確立ならびに推進」という項目がある。

 内容は「漢方・健康補助食品やハーブ療法、食餌療法、あんま・マッサージ・指圧・鍼灸・柔道整復、音楽療法といった相補・代替医療について、予防の観点から、統合医療としての科学的根拠を確立します。アジアの東玄関という地理的要件を活かし、日本の特色ある医療を推進するため、専門的な医療従事者の養成を図るとともに、調査・研究の機関の設置を検討します。」とある。

 こうした文言は自民党のマニフェストにはない。私は漢方と鍼灸以外は専門ではないので、他のことには触れられないが、ここでは漢方・鍼灸がマニフェストに取り上げられた意義について述べてみたい。

●国民からの根強い支持がある漢方医学

 漢方のブームは1970年代に始まるが、近年ますます見直されている。医学が発達し、遺伝子からの創薬や分子標的薬が開発される時代に、目を見張る医学の発達と逆行するような漢方ブームをどうとらえれば良いのだろうか。医療用漢方製剤は1976年に大々的に保険収載されてから30年以上経ち、最近のデータでは、医師の8割近くが漢方を日常診療に用いているという調査結果もある。それに加えて一般用製剤としての漢方の売り上げも好調である。某メーカーのキャッチ「漢方ダイエット」は流行語にもなっている。新たにこの一般用漢方製剤に参入した大手製薬メーカーもある。

 こうした現象を見る限り、国民の多くが漢方に関心を持っていることが分かる。ただし、まだ「漢方」に対する誤解があることも事実である。多くの人が「漢方の本場中国」という言葉に踊らされている。漢方医学は日本に伝来して1500年経ており、江戸時代に当時の清朝での医学があまりに理論的すぎて実務に対応できなくなっていることから、独自の医学体系を築いた。「漢方」という言葉自体が江戸時代になされたわが国の造語である。

 これが商売にばけると「本場漢方の中国ツアー」となるのであるが、漢方自体が日本の伝統医学であり、中国で「漢方」と言っても全く通じない。ましてや売られているのは正規の中医学ではなく、日本人専門の商売であることが多い。中国当局に言わせると「ばかな日本人がいる限り、こうした悪徳業者を取り締まっても取り締まりきれない」ということになる。

 漢方医学はわが国独自の伝統医療であり、商売を目的とするものではない、ということを明確に認識してもらう必要がある。

●世界から孤立する日本の漢方

 MRICの臨時vol.164で紹介させていただいた21世紀漢方フォーラム「世界の中で孤立する日本漢方」はおかげさまで177名の参加者を得て盛会のうちに終了した。今後ICDの仲間入りをしようという世界の動きがある中で、まだまだ漢方医学の国内的な盛り上がりに欠けていることを痛感する。国民の多くが支持する中、医学教育モデル・コア・カリキュラムに入ったことで、全国80の医学部・医科大学すべてにおいて漢方卒前教育がなされている。

 しかしながらせっかく卒前に漢方に触れた医学生が研修医、専修医となった際に指導医から漢方を否定されることで、持続した漢方の修練が積めないことが問題である。今の医療の指導者クラスにはまだまだ漢方が浸透していない。しかしこれはジェネレーションが代わっていく過程で徐々に漢方を取り巻く環境に変化がもたらされることが予想される。

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