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遵法のための疲弊
鈴木ゆめ(横浜市大学附属病院神経内科)

2009/04/06

すずき ゆめ氏○1979年一橋大学社会学部卒業。86年横浜市大医学部卒業。ベイラー医科大学客員講師を経て2008年、横浜市大附属病院神経内科教授に就任。現在に至る。

 横浜では労働基準法遵守と、安全管理の徹底が行われています。特に研修医に対しては前者が重視されています。どの病院でも当然のことではありましょう。これに異論を唱えるわけではありません。大切なことではありますし、世の中にはわずかであれ無茶な医療をしているところもあるのかも知れません。横浜では不幸なことがあったため、徹底した管理を導入しています。

 具体的には外科研修直後に亡くなった研修医が労災と考えられ、研修医が労働者と認められたことから、労働時間を遵守するように、研修ノートに勤務時間を書くこと、5時になったら帰るように上の医者が必ず毎日口に出して言うこと、など、細かいことまでが実際に励行されるようになりました。

 特に時間外手当の付かない初期研修医において、労働基準法の遵守がないと、研修指定を取り消されるとのことで、みんな本当に一生懸命でした。腑に落ちないまま、研修指定が取り消されてはたいへんと私もその旨教室員に伝えましたが、本当に問題なのは数字に残る労働時間や時間帯、当直数ではなく、働く人の人としての疲労に気づかなかったことなのではないかと思いました。

 ただ、時間数にも時間帯にも関わりなく働き続けることもある外科のスタッフを責める気持ちも湧きませんでした。ではスタッフにも労働者としての保護を与えるなら、だれがそのひずみを負うことになるでしょうか。

 私たちの職場では研修医はさておき、わずかばかりの時間外手当など付こうが付くまいが、必要な労働時間をそれを行う労働者の数で割ると、労基法どころか、自然界の物理的制約すら越えてしまうのですから。遵法を徹底し、スタッフが時間になると誘い合わせて帰宅したなら、必要な治療を必要な時間に受けられず、不幸な転帰を取る患者さんがでてしまいます。

 もし簡単にスタッフもまた労基法を守れというなら、それをおっしゃる人が結果に責任を持たなければなりません。それはそれ、これはこれとbureaucraticに事を進めてきた今、ひずみが確実に大きく育っています。

 一方、安全管理面からは、研修医が処置や処方指示一つ一人では出せない仕組みが徹底されました。処置のうち研修医が一人きりでできることは採血程度。指示すら上級医の承認を常に必要とし、これを今年から完全導入した電子カルテで実行するには、病棟に於いても相当の労力を必要とされます。たとえば薬の指示は処方のみならず、変更も上級医のチェックを受けた旨の入力がいちいち必要になります。なければ病棟が受けられない仕組みです。

 もちろん、上級医の指導は必要なのが研修ですが、重症患者の管理に於いて、時々刻々変わる病状に合わせた治療の変更が口頭指示による研修医の入力では、患者さんまで届かないのです。上級医がその入力された指示を確かに認めたという入力が必要です。

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