日経メディカルのロゴ画像

薬害肝炎後の医薬品行政 何が変わったのか?変えていくのか?
「人」の力で未知の薬害を制せよ!
堀明子(帝京大学医学部附属病院腫瘍内科帝京大学医療情報システム研究センター)

2009/03/17

 2008年1月、フィブリノゲン製剤等の血液製剤による薬害肝炎事件について、国と原告・弁護団が基本合意に至った。これを機に、厚生労働省は2008年5月、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」を発足。現在までに10回開催され、薬害肝炎事件の検証、薬害再発防止に向け行政や医療機関等が取り組むべき安全対策、さらには薬事行政の組織論など、極めて多岐にわたる内容が議題となってきている。舛添厚生労働大臣が相当力を入れている会議でもあり、来年度も継続の方向性が示されている。

 薬害肝炎の悲劇を繰り返してはならない。過去の例を検証し、そこから学ぶことの重要性については誰しも異論ないだろう。ただ、留意すべきは、様々な薬害の反省を基に改善を重ねて来た結果、薬害肝炎が生じた当時と今とで、薬事行政のあり方、特に厚生労働省医薬食品局と医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)の体制が大きく異なることだ。

 当時の制度では対応できなかったが現在の制度では対応できる問題点と、過去の薬害からは想定できないため、現在の制度でも対応し得ない問題点とに分け、冷静に議論する必要があるだろう。

 加えて、将来薬害を繰り返さないためには、現在を基点として将来を志向した薬害防止体制の構築が必要である。今、薬事行政に求められているのは、現在対応できているリスク管理をより良いものにするにはどうするか、また、現在の体制でも対応し得ないような未知の薬害・事態が発生するリスクにどう対応していくかである。

 その際、明暗を分けると思われるのが、組織を構成する人材と、データベースや薬剤疫学的手法等の科学的なツールの活用である。特に、組織における人材の採用・育成および環境形成においては、職員の出入りの流動性確保と、異分野の専門家の融合がカギを握るものと考える。

 私は2003年7月から2007年12月まで、旧医薬品医療機器審査センター及び現在の医薬品医療機器総合機構(PMDA)で新薬審査関連業務に従事し、現在、同委員会の委員を務めている。今回は、医療現場と審査の現場、双方の経験を有する立場から、薬事行政の現状報告とともに、薬害再発防止のための提言を行いたい。これにより医療者や患者はもちろん、広く国民の間で議論が深まることを期待するものである。

 ※「薬害」とは明確な定義がなく、個人によって解釈が異なる可能性がある。ここでは、安全性上の問題を早期に発見、対応、情報公開できずに、健康被害として拡大し、社会問題化することを「薬害」と表現する。

【1】PMDAによる安全対策 ≪現状と課題≫

 最初に、PMDAが実践している安全対策と今後の課題、それに対する提言を行いたい。
(1)安全性は大丈夫?治験中の医薬品

 治験中は、厳密な副作用報告が義務付けられており、PMDAの新薬審査部においてこれらの副作用報告をタイムリーに把握する工夫・努力がなされている。また、治験実施中に、危険な副作用の頻度が多い可能性がある場合などは、PMDAが当該製薬企業と話し合い、場合によっては治験を一度差し止めて解析を行わせることが可能となっている。

(2)審査部門と安全対策部門の連携強化を!

 現在でも、PMDAの審査部門と安全対策部門は連携・情報共有するよう個別に努力がなされているが、さらに密な連携を可能とする体制づくりが必要である。そのために注目すべきは、審査に携わった職員が市販後の安全対策にも関わる仕組みだろう。実際、PMDAでは、プロダクトマネージャーとして開発から市販後まで一貫してみる立場の職員を置くなどの試みが始まっている。

この記事を読んでいる人におすすめ