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日本の社会制度の問題点と医療
嘉山孝正(山形大学医学部長医科学系大学院脳神経外科教授)

2009/03/12

かやま たかまさ氏○1975年東北大医学部卒業。国立仙台病院、東北大学を経て2003年山形大学医学部長に就任、現在に至る。

1, 医療の質の評価と日本社会の特殊性

 日本国民が受ける医療の質は、自身の留学経験、国際学会出席の経験や、WHO(世界保健機関)のデータからみると、国際基準より遙かに質が高い。この場合の医療の質とは、医療が介入しなければその生命や機能が損なわれる患者さんを救うといった科学的な医療内容を指し、さらに、国民がそのような医療を受ける際の経済的負担や時間的要素を勘案した総体をさす。

 勿論、医療の範囲は広大であるから、少数の分野で国際的に日本の医療が劣っているものはある。たとえば心臓移植であるが、これとて日本でできないことはなく、提供臓器の数の問題であって、技術的には可能である。一般の国民はこのような医療行為が他国で行われる記事を目にして、日本の医療が低レベルにあると誤解している。

 また、宗教上の問題で遅れている分野があるように誤解しているものもある。新たな医療分野を開拓する場合、宗教観や人権という言葉が出た瞬間に、日本のジャーナリズムは思考停止に陥ってしまい、新たな分野に関する論議の場すら認容しないように思われる。

 米国では、減刑を条件に囚人がそのような新たな医療の対象になることを容認している。一方、日本では患者さんの権利という錦の御旗を掲げて活動している人々が、人権侵害と言う名のもとに却下する。

 誤解を受けないために記すが、筆者は囚人が新たな医療の対象になる事によって、罪を減刑する制度を容認しているわけではない。このような極端な事例だけではなく、医療を育てようとする気配が近年の日本人には認められない。

 医学部の学生教育でも同様の事象がある。医学教育をしっかりしろと言う、まさにその人が、自分だけはベテラン医師の診療を要求する。また、患者さんはホテルのような接遇内容を医療の質と誤解しがちだが、それは真の医療の質ではない。

「看護師さんを呼んでもすぐ来てくれない」「医師が3分しか説明してくれない」「病室が相部屋である」。これらの問題点の中には、勿論とんでもない医師や、看護師、病院経営者のためにおきているものもあることは否定できない。

 しかし、多くの医療人は、先進30カ国の中でも下位にある医療費や、米国その他と比べて医師数・看護師数・事務職員の人数が1割、といった環境で医療を行っている。この事実を大新聞・マスコミは、知っていても国民にほとんど伝達していない。

 また、多くの国会議員も知らない。結局、国民は医療に対して不幸感や不安感を持たされて最も気の毒であり元々一般の労働とは異なり誠意で成り立っていた医療人の士気は下がってくるという悪循環にも陥っている。

 医療の質を科学的に検証もできないマスコミが、この問題を最も悪くしている。勿論、医療を担う人間、特に指導者たる大学病院や各病院長、日本医師会は、自立とともに自律・自浄作用を常に働かさなければならないことは論を待たない。

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